頭を下げると――やっと『人間らしい反応』が見られたからか、張りつめていた糸がゆるむように、何人かから軽く息がもれた。

「では、先生方、仕事に戻ってください。教頭先生と、稲葉先生は少し残ってください」

校長に言われて、応答の声があがる。

残るよう言われた教師以外が出てから、また頭を下げて退室した。

「……ミスりましたね」

「愛子の行動は読みたくありません」

部屋の前で待っていた朝間先生は、厳しい声をかける。

俺は飄々と返すが、少し疲れた。

「マナちゃん、本当に貴方を警察に入れたいんですか?」

「俺だけじゃありませんよ。愛子は降渡も引きずり込むつもりです」

「……さっさと警官になっておけばよかったじゃないですか。そうすれば……わたしが言うのも難ですけど、結婚への障害も少なかったでしょう」

俺は今度こそ『人間らしい反応』を見せた。

雑に頭を掻く。

「いやー、ちょっとかなり図抜けて飛び抜けたアホ過ぎるバカな弟がいるんで、警察に入るのは問題ありなんですよ。内部からだとあれに制御がかけられない」

「…………どんな弟さんがいるんですか。お兄さん、評価非道すぎるでしょう」

「向こうもそういう兄評価してるからいいんですよ。遙音を高校へ進学させたかったのもありますし」

「……普通そう思っても、自分が教師になればとか考えませんよ」

「俺らはそう考えますよ」

朝間先生は、はあとため息をついた。

「貴方、これから周囲が変わりますよ」

「でしょうね。今まで頑張ってみたんですが……やっぱりキャラじゃない。いつかボロは出ますね」

「……わかっててその対応ですもんねえ。女子生徒には気を付けてくださいよ。特に」

「……婚約者いるって言っていいと思います?」

「うーん……退く人は退くでしょうけど……、って! なんでわたしがそんな相談乗らなきゃなんですか!」

「朝間先生が振って来たんでしょう」

「もうわたし戻ります! わたしをマナちゃんとの交渉役にとか考えないでくださいね!」

「残念です」

「ほんっと他人を使うことしか考えませんね!」

朝間先生は憤然と歩き出した。一応、その背を見送った。

うーん。

……ちょっと、面倒になったなあ。