「うん。ありがと。笑満のおかげで一緒にいられたよ」
『それは咲桜、在義パパのおかげでしょ。在義パパからお許しなかったらあたしがどう動いたってムリだったんだから』
……確かにそうだ。妙に納得して、真顔で「なるほど」と肯いてしまった。
『あはは。今度在義パパにも作ってあげたら? ケーキ。龍生さんの味だったら慣れてるかもしんないけど』
「そうだね。そうする」
龍生さんが作るものは、正しくは『光子さんの味』だ。
……夜々さんから伝え聞いた話だけど、光子さんは在義父さんを苦手としていたと言うか……あまり好意的には見ていなかったらしい。
在義父さんと龍生さんがつるんでいるのは常のこと。
そこに夜々さんがいるのもいつもの風景。
いつの頃からかそこに光子さんが混ざるようになったのだけど、光子さんは在義父さんには一線を引いて、決してそれを越えようとしなかったそうだ。
『在義兄さんは、芯が燃えているように強(こわ)くつよい人だからね、そういう人に、恐怖心ていうのかな……畏怖心とも言うのかしら、抱いてしまう人っているのよ。それが、龍生兄さんの恋人の光子さんだったの』
恐怖心。畏怖心。絶対的な、華取在義。
なんとなく、夜々さんの言いたいことはわかった。
はっきり言葉に出来るほど明確ではなかったけど。
薄ぼんやりと輪郭だけは摑めた気がする。
父さんはそういう種類の人なのだと。
そして、受け入れられてばかりではないと。
『でも、違うのよね。在義兄さんは炎な人だから、『焼かれてしまう』と思うみたいだけど、本当は在義兄さんに誘発されて表に出てしまった、自身の炎に呑まれてしまっているだけなのよ』
在義兄さんではなく、自身をちゃんと見ていれば、簡単に対処出来るのだけど。
夜々さんは困ったように眉尻を下げてそう言った。
「笑満。お祝いしてくれるのは嬉しいしありがたいんだけど……どうしたの? ちょっと元気ない?」
私の耳に聞こえる笑満の声。
いつもより高い音で喋るのは、笑満が無理に元気を作っているときのクセだ。
その指摘に、笑満は黙ることで答えた。
私は笑満の声を待つ。