吹雪がくすくす笑いを噛み殺しながら問いかける。
藤城の教師は魂でも抜かれたような顔をしている。
「流夜には教師は無理なんです。未だにこちらとの関わりを断つことが出来ない。そして状況は、確実にそれを許さなくなった。今年度いっぱいは待ちます。もうこれ以上は無理だよ」
「……依頼者ってのは、愛子か」
「勿論。――と言いたいところだけど、それにプラスアルファのお偉方が何人もいるよ。残念だったね。もう詰んでしまったよ」
吹雪は軽く肩をすくめて見せた。
「大体さあ、学校でも何人かにはばれてんでしょ? 性悪の方も。遙音もいるし。いい加減諦めなよ」
「……あいつまで巻き込むなよ」
「失敬。訂正するよ」
吹雪がわざとらしく肩をすくめる。
俺はため息を吐いた。
「――吹雪、降渡。もう出ていけ」
冷えた音に、教師生徒、びくりとした。
まさか神宮先生がこんな声を出すなんて――、という顔をしている。
どうやら上手いこと化けられてはいたみたいだな。
「こちらまで巻き込んで申し訳ありませんでした。あとは自分の方で処理致しますので、もうご迷惑はおかけしません」
さっさと頭を下げると、降渡と吹雪の首根っこと腕を摑んで応接室を出た。
廊下で必死に中を覗こうとしていた生徒たちは、出てきた俺にびっくりしたように、道を開けた。
「りゅう痛いっ、首締まる!」
「流夜―、いいの? 僕らが最後まで話さないで」
「うるさい俺がカタつけるつってんだ。お前らは首突っ込むな」
信じられないものを見る目の生徒たち。
その中に混じって、咲桜と遙音の声が聞こえた。
「せんぱい……」
「あー、うん。……ついに来ちゃったかあ、て感じだ」
「………」
やはり、俺たちの周囲の人間もわかっていたか。
俺にとっての『今のまま』、は、とうてい続かないことを。