教務主任・稲葉と、教頭・海彦は俺たちが高校生の頃から藤城にいたはずだ。
「今日はどうしたんですか? いきなりでびっくりしています。それに、神宮先生ですか?」
海彦教頭が代表して問う。吹雪はやっぱり微笑んだ。
「なんだ。忘れてるじゃないですか。――今回の交渉人(ネゴシエーター)はこちらの雲居です。僕は依頼者から経過を見守るように仰せつかりました。――降渡」
吹雪が話を振ると、降渡は居住まいを正した。
「突然押しかけたこと、謝罪致します。大変失礼致しました。本日は、警察上層部からの依頼を持ってきました。こちらの教師、神宮流夜を警察にいただきたいのです」
ざわっと、応接室内もそれが聞こえた廊下もざわめき立った。俺がイラついたことに、咲桜と遙音は気づいたはずだ。
「警察? 神宮先生、なにかしたんですか?」
海彦教頭は驚きの瞳で、つっ立っている俺を見上げてきた。
「あ、誤解しないでください。別に流夜が悪さして逮捕状が出ているとかじゃないですから。上の望みは、流夜を警察の人間にすることなんですよ」
またもや空気が波立つ。
俺を見る教師の顔色が変わる。
窺うように見られても、変える顔色なんて持っていないが。
「いやー、本来なら流夜って警察にいるべき奴なんですよ。それをこいつ、教師になっちゃって。今までは上も黙認してたんですけど――そろそろ、流夜の腕が必要になってきまして。なので、流夜に教職を辞めさせて警察に入れる。それが依頼者の目的です」
「警察って――神宮先生? 今の話は、本当ですか?」
稲葉先生が不審げな声で問う。
いきなりそんな話をされたって挨拶に困ると顔が言っている。
「本人には何回も要請しているんですけど、色よい返事をもらえなくて。なので学校側にお願いすることにしました」
視線が次々とこちらに集まる。それでも無表情で黙す。
……これ、絶対愛子の所為だろ。あのトラブルメーカーめ。
「――神宮、もうタイムアップだ」
割って入った声は宮寺だった。