……なんでだろう。なんでこんなに、真っ直ぐに言葉してくれんだろう。なんでこんなに、愛してくれるんだろう。なんでこんなに、……―――愛することが、できるん、だ、ろう……。
「か、母さん!」
私も、母の影を見つめて叫んだ。
「私の、大すきな人なの。ずっと、一緒にいたい人なの。お願いします。付き合ってること、け……結婚すること、認めてください。お願いします」
勢いよく頭を下げる。
答えが返ってくることがないとわかっていても、そうせずにはいられなかった。
「……咲桜」
隣から降る柔らかい声に、泣きかけの顔をあげた。
「うん。ありがとう」
「あ、こちらこそ」
また、手が繋がれた。そのまま、桃子母さんの横たわる石の室を見る。
桃子母さん。長いこと、ここに向き合えなくてごめんなさい。やっぱり、母さんの死を前にするのは怖かった。最期に、どうして……私を一緒に連れて行こうとした、理由はわかってる。でも、……辛かった。苦しかったよ……。一緒にいっていればよかったって、何度思ったかわからないよ。でも、生きてしまって。
――生きたから、出逢えたんだ。
母さん、この人の姿が見えますか? 私の知る、誰よりも強くて、誰よりも優しい人です。
これからずっと、ずっと一緒にいるって、約束した人です。
「……桃子さんは、自殺ではないよ」
「…………え?」
「在義さんに、聞いた。咲桜から聞いたのが、桃子さんの最期じゃないんだ。咲桜の記憶にあるのとは数日経ってから桃子さんは、在義さんの腕の中で、言い方は少しそぐわないけど、老衰に似た亡くなり方をされたそうだ。咲桜が、眠っている間に」
「…………」
母さん?
「……そっか。……そうなんだ」
「うん」
流夜くんの手を、握り返した。
柔らかい、風が一つ吹いた。
……私たちの姿を見つめる影には、流夜くんすらついぞ気づかずに。