桃子母さんが眠るのは華取家の墓だ。
この前、在義父さんのいる『華取家』は傍系だと知ったけど、在義父さんは桃子母さんを代々の墓に横たえさせた。自分の妻として。
寺の裏山に段々に作られた墓の一つ。
流夜くんと、その前に立った。
「はじめまして。桃子さん」
繋いでいた手を解いて、流夜くんは語りかけた。
私は手を組んで、静かに聞いている。
「在義さんには認めてもらっていますが、咲桜さんと結婚前提で付き合っています」
「………」
う。こう、静かな雰囲気で聞くとこっぱずかしい……。
「咲桜のこと愛してるので、心配なさらずに俺にください」
「! ど、どういう言い方⁉ それって一般的なの⁉」
淀みないいきなりの挨拶にびっくりした。
色々すっ飛ばしていないだろうか。
「咲桜としか考えたことないから一般的とか知らないけど、咲桜の母君だからストレートに言わないと曲解上等だろうなあ、と」
「う」
は、反論出来ない……。
その思考回路の所為で、自分、今までも色々流夜くんに迷惑をかけているらしい……。
「まあ、反対されてももらっていきますけど」
「今までの挨拶台無しだよ!」
思わず叫ぶと、流夜くんは「うん」と目を細めた。
「いつもの調子、戻ったな」
「う」
……自分のテンションまで取り扱われていた……。さすが流夜くん。何枚も上手。
「一番は――」
と、言葉を返せない私の肩を、流夜くんが抱き寄せた。
「咲桜に、生きていることを後悔させませんので、ご安心ください」
「―――――――」
「最後を越えても愛しています。……どうか、お認めください」