「いえ、そのようなことは……でも、あの、急に連絡したことを怒っておられるのかと」
「うん? 流夜くんにしては察しの悪い言い方だねえ」
「すみません」
「これ以上私が譲歩するわけがないだろう。聞こえた言葉で解釈しなさい。ああ、それから――」
在義さん、相変わらずの鉄壁だった。
囁かれた言葉に、俺は頭を下げることで応えた。
「咲桜、夜々ちゃん。私は仕事に戻るよ。夜々ちゃんも、帰るの遅くならないように」
「はーい」
朝間先生は嬉しそうに咲桜を抱きしめて、在義さんを見送った。
……若干腹が立った。
咲桜が「顔洗ってきます~」と顔をぐずつかせたので、俺と朝間先生もリビングに入った。
「……本当に、辞める気だったんですか?」
一転、朝間先生の声は低くなる。
予想していた問いかけに、当然のように応じる。
「琴子さんにご納得いただけなければ。教職についている理由も、最近なくなったので」
「……理由?」
「そこまでは関係ないでしょう」
「……本当性格悪いですよね」
「元からです」
睨みつける朝間先生の目も無視。性格悪いのも生まれつきだから仕方ない、と。
「………そうやって貴方は、咲桜ちゃんのために色んなもの、かなぐり捨てて行くのですか」
朝間先生の目は、怒りではなく哀し気だった。
そう言われてもなあ。
「捨てられるほど軽いものを持った覚えはありません」