「……すっっっっごく! 複雑だけど……」

朝間先生が、キッと俺を睨んだ。

「ばれないように、今一層心掛けてくださいね」

「朝間先生の協力もいただけるんですね?」

「私が護るのは咲桜ちゃんだけです。神宮さんは知りません」

ふいっとそっぽを向いて見せた朝間先生だが、ちらっと横目に咲桜を見る。

「? 夜々さん?」

俺と朝間先生の言い争いはもう挨拶みたいなものであるから、咲桜は動じなかった。

「……よかったわね、咲桜ちゃん」

朝の陽ざしのように微笑まれて、咲桜の口元が歪んだ。

「~~~夜々さん~~」

咲桜が朝間先生に抱き付くと、優しく抱き留められる。

「うん。よおくがんばったわね」

「夜々さんありがと~。母さんにも教えてあげたい~」

箏子さんに、嫌われてはいなかったのだと。

涙声の咲桜を、自分より背の高い咲桜の頭を、朝間先生は撫でる。

「そうね。……桃ちゃんなら、咲桜ちゃんが聞いたことで、わかったと思うわ」

「だと嬉しい~」

朝間先生は少し腕を離して、咲桜の顔を覗き込んだ。咲桜の顔が涙でぐしゃぐしゃだ。

「うん。桃ちゃんに似た美人さん。もっと綺麗になるわね。ね、在義兄さん」

「そうだねえ。……でも性格が、桃より夜々ちゃんに似てる気がするのはなんでかなあ」

「気の迷いです。あ、違った。気のせいです」

朝間先生の訂正。

咲桜、朝間先生の影響受けすぎだろう……。

「流夜くん」

「―――はい」

在義さんに呼ばれて、静かに返した。

「何を言われるか、わかっているかな」

「………はい」

すぐ傍では咲桜と朝間先生が泣き笑いで楽しそうにしている。

俺だけ極寒の中だった。

「ありがとう。流夜くんのおかげだ」

「すみませ――……は?」

「ん? 私に二度言えと?」