「朝間先生はともかく、箏子さんさえ騙せればよかった。見慣れているはずの在義さんを見間違うほど動揺している、って証拠がほしかったんです」

「………―――」

説明すると、箏子さんは顔を真赤にさせて口をつぐんだ。

送れて、咲桜は意味を理解し始めたようだ。

「簡単に言うと、箏子さんの本心は、今の行動ってことだな」

「………」

降渡が雑に髪を手で梳く。

「あー、夜々子さんでしたっけ? あんまりゅうを苛つかせない方がいいですよ? こいつこの通り、かなりえげつないやり方でヒト、追い詰めますから」

「……確かにえげつないですね」

朝間先生は神妙に肯いた。否定はしない。

「……在義!」

結局箏子さんは、在義さんを睨みつけた。そもそもの黒幕たる。

在義さんはにっこり微笑む。

「流夜くんには私程度では、相手務まりませんよ。流夜くんに敵うのは、彼の弟くらいのものですから」

箏子さんは、今度は俺を睨んだ。

「いつから、こんなこと考えていたのです」

「考えたのは、朝間先生から連絡をもらってからです。正直、俺みたいな部外者が関わらないところで、箏子さんの咲桜に対する誤解が解ければ、程度には思っていましたが」

「………」

箏子さんは、やはり押し黙った。悔しさが臨界点という顔だ。

「俺の考えは、有言実行した方が早いかと。この通り、咲桜のこととなれば俺が惜しむものはありません。今日、咲桜と結婚するために教職辞めることも厭(いと)いません。箏子さんがまだ何か言いたいことがあると言うなら――本当にさらいますよ?」

箏子さんは口の端を引きつらせた。俺が本気で言っているとわかっているようだ。

「それで、あの……くもいさん? って、『雲居降渡』くんですよね?」