「ああ。悪いな」
『在義さん』が、俺が渡したタオルで顔を拭いた。
染料がついたタオルの下から現れたのは降渡だった。続けて、こちらはカツラだった髪を取り払う。
「初めまして。流夜の幼馴染で、在義さんと龍生さんの弟子の雲居といいます。本業探偵をしています」
『………』
咲桜と箏子さん、口を半開きにして言葉をなくした。変装を見たのは初めてだったようだな。
「あ――でも、声、在義父さんと同じでした。変声機じゃないはず、です……」
耳には自信のある咲桜が言う。
「うん。声は在義さん本人」
そう、俺は肯いた。……どういう意味? 咲桜は眉根を寄せるが、箏子さんはそれ以前の段階で停止してしまっているようだ。
ゆっくりと、玄関扉が開いた。
「私が喋っていたってことですよ。嵌められましたねえ、箏子先生」
「………―――なっ、在義!」
いつも通り――スーツ姿の在義さんが、朝間先生の後ろに立った。
その姿を見止めて朝間先生は、ほっと息を吐いていた。
「な、なんでこんなことしたのですか!」
「このくらいしないと箏子先生が咲桜のこと、嫌いまくってると誤解されたまま嫁に行くことになりそうでしたから。箏子先生が、私がいない隙に咲桜を呼び出したと、夜々ちゃんから連絡を受けた流夜くんから聞きまして。流夜くんに一計案じてもらったんです」
「謀った程度ですけどね。在義さんがここまですぐに帰れないということで、降渡に在義さん役をやってもらいました。変装を完璧にしなかったのも、勿論理由はありますよ」
「理由?」
咲桜が首を傾げる。
「そう。身長と服装。朝間先生はすぐに気づいてましたよね? 本物の在義さんじゃないって」
「え、ええ……」
朝間先生が肯く。