「元々、咲桜を否定しまくったのは箏子先生でしょう。あの子の何が気に入らないんですか」

「………」

「理由はなしですか。じゃあ、咲桜がどこに嫁に行こうと箏子先生が関知するところではないでしょう。咲桜の父親は私です」

「……っ、夜々子! お前も何を黙っているんです! お前はあの子の母代わりを名乗っていたでしょう!」

「いえ、勝手に乗り込んだのは母さんでしょう。それに……」

「お前が言わないならわたくしが言います! 咲桜を返しなさい! あの男の家はどこです!」

「んー、そうですねー」

在義さんらしくない語尾を伸ばした返事に、固まっていた咲桜がゆっくり融けた。

「――というわけらしい」

「ああ。急に頼んで悪かったな」

咲桜の背に手を当てて明るい方へ導いた俺は、『在義さん』にそんな口をきいた。

「お前……! どこに咲桜を隠していたのですか! 在義! お前も仲間ですか!」

「在義さんじゃありません」

俺は、自分より背の高い『在義さん』の隣に立って、そんなことを言った。『在義さん』が口を開く。

「りゅうに、「少し手を抜いてくれ」って言われたから身長とかはいじってないんですけどねー。夜々子さんは気づいてましたよね?」

「え、ええ……だって、在義兄さんはそんな恰好しないですから」

『え?』

咲桜と箏子さんの声が揃った。

在義さんは、スーツのスラックスにタートルネックのニット姿。……あれ? と、咲桜は声を漏らして、何度も瞬く。

「咲桜、在義さんはいつもどんな格好している? と言うか――在義さんの私服ってどんなだ?」

「えと……いつでも出勤出来るようにって……スーツにシャツに……え?」

在義さんは基本的に、スーツ姿で家の中にいる。

出かけるときも、呼び出されることを前提にしている。

今の在義さんの格好はあり得ない。見たことがない。それに、俺より背丈は低い。

「もう取っていい?」

『在義さん』が俺にそんなことを訊いた。