「きゃっ⁉」
「神宮さんっ?」
朝間先生は、来るのが遅いとは責めずに、俺の行動に目を見開いた。
「朝間箏子さん。咲桜が在義さんの娘であるのが我慢ならないと言うのなら、今日付けで神宮咲桜になってもらいます。ご心配には及びません。在義さんからは結婚の許しもいただいていますし、年齢の問題は時期を待ちましょう。ああ、俺の教職は問題になるでしょうから、そちらも今日付けで辞職届を出して参ります。片手間にやっている仕事一本にする、いい機会です。咲桜の住まいも、今日中に俺のアパートへ来てもらいます。在義さんも朝間先生も、咲桜に逢いたければうちへ来れば大丈夫でしょう。――金輪際、咲桜の姿が貴女の瞳に映らないように致しますので、どうか二度と咲桜を傷つけることを言わないでいただいきたい」
響く声に、箏子さんも朝間先生も口を開かなかった。
咲桜を抱き上げたそのまま、道場を出た。
咲桜が、俺の胸のあたりの服を、きゅうと摑んで来た。
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「あ、あの……っ」
「ん。ここにいれば大丈夫だから」
戸惑う咲桜の頭を軽く撫でる。薄暗いそこに、割れるほど大きくドアを叩く音が響いた。
「在義! いるんなら出なさい! 咲桜が攫われたんですよ!」
びくっと咲桜の肩が跳ねた。箏子さんの声だ。
落ち着かせるように、片腕で抱き寄せた。
「箏子先生、なんです」
応対する在義さんの声も聞こえた。箏子さんが取り乱しているのと反対に、在義さんの声は落ち着いていた。
「咲桜が! 連れ去られました! なんですかあの男は! あのような横暴な者を咲桜の婚約者にするなんてお前は何を考えているんですか!」
「流夜くんですか? 咲桜にとっては一番の相手だと思っていますが」
「あれのどこがですか!」
「咲桜が生きることに前向きになれたのは、流夜くんのおかげです。少なくとも私はそう思っていますが?」
「だからって――」