朝間の家に入るのは二度目だ。

と言っても、前に箏子さんに挨拶をするのに玄関先に立っただけだが。

扉を開ける直前、意識はその隣――家と言うより道場のような雰囲気の建物に向いた。

こういうときの直感には従って来た。

危険な場所に入っても、本能が告げることは信頼していい。

迷わず、母屋(おもや)から隣の建物へ向かった。

「――咲桜」

低く、凛とした声。朝間箏子の声だ。

入り口らしき扉を見つけ、取っ手に手をかけたとき声は続いた。

「全く。なんでお前のような者が、在義の娘になるのでしょうね」

「―――――」

太刀傷を、背後から受けたような衝撃だった。

頭の中のどこかで警戒していたのに、後回しにしてしまっていた問題。

「母さん! なんでそんなこと言うの!」

怒鳴ったのは、朝間先生の声。

では、咲桜はこの中に――箏子のところに、いるのか。

「お前もお前です。夜々子。在義ならば伴侶に認めると、言っていたはず」

「だから、恋愛ってそういうのじゃないでしょう! 母さんの古時代の見合い感覚で現代に話を持ち込まないで!」

朝間先生が怒鳴り散らしている。

……咲桜の声は、しない。

「在義兄さんは桃ちゃんがすき。だから結婚した。私は、在義兄さんもすきだけど、桃ちゃんも大すきなの。二人の仲ぶち壊そうなんてするわけない」

「でも、桃子はもういません。在義と咲桜、お前のよすがももうないに等しいのですよ」

……それは、なんだ? 咲桜に、在義さんと縁を切れと言っているのか? ――冗談じゃない。

扉を引いた。

「失礼致します」

俺の声に、場の空気は更に張りつめたように感じた。

中はやはり道場だった。がらんと広い空間。

そこに、正座した箏子さんと、立ち上がった朝間先生。

箏子さんの前で小さく正座している咲桜がいた。

咲桜の瞳が俺に向いて、急に泣きそうになっている。ふざけるな。

「急の訪問、お許しください。問題を解決する方法を持っておりますので」

言って、咲桜を姫抱きに抱きあげた。