「ん? 別に、朝間先生は華取の家の隣で、咲桜の母親みたいな人で、咲桜の父である在義さんの幼馴染ってだけだぞ?」

「…………そうなのか?」

俺の動揺が完璧に見抜かれている。

むしろそっちの観察眼の方が怖い。

「そうですよ。私がすきなのは咲桜ちゃんのお父さんの在義兄さんだけです」

可愛らしく言われたが、それもなかなか爆弾な気がする。

咲桜の父ってことはつまり、妻子がいる人なんじゃ……。

「咲桜の母親は亡くなっていて、咲桜も慕っているから……俺も邪険には出来ない。さっさと在義さんと結婚してくれませんか」

「そこまで踏み込みますか。せめて靴を脱いで揃えてから入ってくださいよ」

「そんな手間かけてられますか。貴女に」

「………」

ああ……なんとなくだけど理解が追いついて来た。

つまり、『私の咲桜ちゃん』というのは娘的意味合いなのだろう。

お隣で、父と幼馴染なら――結構年は離れていそうだが――その縁で旧知だったとか。

そこへ流夜が現れて咲桜を掻っ攫って、朝間先生からは疎まれている。

……大変そうだなあ。

朝間先生も、咲桜の父親がすきって……それで年頃を迎えても浮いた話の一つもないのか。そこは納得だ。

「……大変そうですね」

「全くだ」

「貴方に言えた口ですか。神宮さんさえ去ればいい話なんですよ?」

「去るわけないでしょうが」

……。

険悪だ。

「あれ? 笑満、いるんじゃないんですか?」

保健室を見回すけど、人がいる気配はない。

確か朝間先生は、「松生さんが待っています」と言っていたのだけど。

「いませんよ。神宮先生に合コンだの行かれて、咲桜ちゃんが悲しむのも嫌なんで助け舟出したつもりなんですよ?」

「……………それは、業腹ですが、助かりました」

『業腹ですが』を強調して言った。『助かりました』は小さかった。