流夜くんに奪(と)られるまで、自分の感情に気づきもしなかった。
流夜くんの存在と、その咲桜の中での特別性のために、咲桜に恋情があるとはっきりわかった。
……すきでいるのを、笑満に肩を借りた一瞬では終わらせられなかった。
玉砕を前提に、ぶつかってこようか。
咲桜は、玉砕してもそれを拾い集めて『頼(俺)』に戻してくれる。告白され逃げはしない、そんな不器用だから。
……彼氏としちゃー心配ダネばっかだねー。
ほかの男にも優し――いのか? 流夜くんがとう捉えるかはわからないけど、咲桜は誰かを邪険にするのは苦手だから。
咲桜が女性優位なのは知っているけど、だからといって男子を目の敵にしているとかいうわけではないし。
大人びた容姿と柔らかい性格で男子からのウケがいいのも知っている。
……全部『日義頼(俺)』が友人というマイナス点の所為で、恋愛対象からは外されているけど。
「ねえ咲桜。俺と付き合ってくんない?」
「ん? どっか行くの? 一人で行ってきなよ。もう笑満は遙音先輩のなんだし」
「………」
袖にするどころかすれ違ったことに気づきもされてねえ。手ごわすぎだろ。
「そうじゃなくて。俺の彼女になってよ」
「……はあ? 私の彼氏は流夜くんなんだから、私が流夜くんの彼女以外になるわけないだろ」
「………」
ストレートな告白で上手くいかないと思って変化球にしたら、変化球のまま打ち返された。飛んでいく方向が全く予想できない。
「咲桜がすきだから咲桜と付き合いたいんだけど」
「そういうのはすきな子に言いなさい。テキトーに言ってるとまともに取りあってもらえなくなるよ」
「………」
初めて言った言葉なんだけど、まともに取り合ってもらえなかった。
……ここまで告白のしがいがない人も珍しいんじゃないかな。