生満子さんが両腕に笑満と遙音を抱きしめて、「オト、いつでもいらっしゃいね」と柔らかい笑みを見せた。
憲篤おじさんも肯く。笑満と先輩に見送られて、二人は《白》から出て行った。
「りゅう、息するみてーに嘘つけんのな」
「お前ほどじゃない」
「あー、まああれの相手してりゃあなー」
フロアで交わされるその会話を、私は複雑な思いで聞いていた。
タイミングを逃して出て行きそこなってしまって、まだ頼と休憩部屋に隠れていた。
流夜くんが私とのことを当たり障りなく説明した部分ではなく――むしろ話したことは事実で、疑いをかけられない話術は見習いたいくらいだ――、三人が斎月の存在を先輩に黙っていることだった。
今も降渡さんは、『斎月』の名前は出さなかった。
先輩は知りたがっている。流夜くんの『相棒』と呼ばれる存在を。
嘘をついている? ……あれ、違う………。
嘘じゃない。嘘をついていたら、先輩は流夜くんの『相棒』の存在も知らないはずだ。遙音先輩はその存在を認識していて、正体が誰かを知りたがっている。『誰』とは、確信を持てずに。
――壁、なんだ。
突に、一つの言葉にいきついた。
三人が示した壁。
自分たちと同じ立場を望むのなら、これくらいは自分で見つけろと。
三人が越えられるほど簡単な壁は用意しない。これは越えるのではなく、壊していく壁だ。
私は、流夜くんの傍(かたわ)らを望んでも、それは恋人という立場のもの。
流夜くんと同じ世界を見るために立ちたいと望んでいるわけではない。
もちろん、支えになりたいとは強く思っている。
遙音先輩が望んだのは、流夜くんたちと同じステージにいること。
だから、三人は壁を用意した。
あるいは試練と呼ばれる類のもの。
三人が越えられるような壁を作っておくわけがない。
今までの三人の応対を見ても、壊して挑まなければいけないほど、三人の壁は堅固だろう。
そして壁を用意するということは、それを壊してくるだろうと信じているからこそ。
三人は、先輩の成長を待っているのかもしれない。
――唐突に、そんな気がした。
手の中で慈しむ育て方ではなく。自由の中で己に選ばせる。
自分たちを見つけ、頼ってきた子どもを。