「初めまして。春芽吹雪といいます。僕の責任を持ってこちらへ呼びましたので、咎めなら僕が」

優雅に胸に手を当てる吹雪さん。

「もしかして、神宮先生の恋人さんとかですか?」

あ。

まだ奥の部屋にいた私には、背中しか見えないはずの吹雪さんなのに、額が青筋だったのがわかった。

「男です、それ」

流夜くんは行儀悪くも吹雪さんを指さした。笑満のご両親はその指の向いた先を追う。

「………」

「………」

「女性ではありません。吹雪は男です」

再度言われて、笑満のご両親は驚愕の顔色になる。

……流夜くんと降渡さん、大変そうだなあ。

「す、すみません! 変なこと言っちゃって!」

「……いえ。よく言われるので」

笑満のご両親はまだ申し訳ない顔で吹雪さんを見ている。

私が思ったほど、吹雪さんの反応は攻撃的ではなかった。

もっと笑顔で潰しにかかるかと思った。

「私は、もうすぐ藤城は辞めます。遙音の保護者であることは変わりありませんが、一に頼るべきは俺たちではなくなるはずです」

すっと、流夜くんの声で吹雪さんの怒りは収まったように場が静かになった。

「遙音のこと、どうかよろしくお願いします」

流夜くんが頭を下げた。

倣(なら)うように笑満の隣にいる吹雪さんも、降渡さんもカウンターから出て来て頭を下げた。

笑満のご両親はびっくりしたようにまた顔を見合わせてから、憲篤おじさんが答えた。

「はい。こちらこそ」