「お二人もご存じの人なんですよ。遙音の行く先を教えられないと伝えた、あの人です」
「え……」
生満子さんはそれきり言葉を失った。
「見た目怖いけど、悪い人じゃないですから。遙音のことを見守っていってくださるなら、逢う機会もあるかと思いますよ」
降渡さんに柔和な笑顔と声で言われて、生満子さんは「そうですか」と瞼を伏せた。
「あの、神宮先生」
憲篤おじさんが少し強張った声で問うた。
「華取さんをご存知なら、咲桜ちゃんのことも知ってるんですか? そのことは、笑満も?」
「はい。華取在義さんの御息女ということで、顔見知りです。勿論自分の仕事のことは学校では伏せていますので、教師と生徒の範囲で応対していますが。咲桜さんの意向で、笑満さんも私の仕事は知っています。日義くんも知ってますよ」
「そうなんですか……」
「今回のこと、相当心配だったようです」
「……ですよね……。正直、遙音くんの進路に反対してしまったあとも、ああ言ってよかったのかと悩みました」
「おじさん、俺が言うのもなんですけど、おじさんたちの反応が普通です。あまり常人じゃないこいつらの近くに居過ぎて、俺の感覚が鈍ってました」
「いや、そうじゃなくてね? 今までの遙音くんを、否定されてしまったと感じていたら申し訳ないことをしてしまった、と……」
「………」
そんなこと、ないです。
先輩の声は揺れていた。
「真っ直ぐ見ていてもらえてるんだって、思いました。反対されたことは悔しかったけど――俺の進路まで考えて、笑満ちゃんとのこと見てもらえてるんだって、嬉しく思う気持ちもありました。ほんとです」
「……そうか。すまなかった」
「気にしないでください。――おじさん、おばさん。俺は神宮たちの歩いている道を、学問を現実に生かす世界で生きていきます。笑満ちゃんのことは何より最優先します。将来も含めて、笑満ちゃんとの交際を認めてください」
先輩は椅子から立ち上がり、大きく頭を下げた。カタン、と音がした。