「……僕たちに、出来ることはある?」
「ちょ、お父さ――
「生満子。僕は、これ以上は反対出来ない。遙音くんが、自分でここまで考えて決めてるんだ」
「え……」
「―――」
憲篤おじさんの言葉に驚かないのは流夜くんだけだった。
生満子さんは押し黙ってから、長く息を吐いた。
「……あたしも、そうね。オトがその道に進まなかったことを後悔するなら、反対はしたくない。そう思うわ」
「おばさん――」
「だから、ね。約束してちょうだい。遙音」
「………なにを、ですか?」
先輩は強張った声で尋ねた。
「死なないって。携わったその……仕事? でいいのかしら? その関係で、笑満を残して死んだりしないって。人の死に関わって、誰かの助けになりたいと思うなら、絶対絶対、自分の命も護りなさい。……殉死を、あたしは笑満に受け容れないわ」
生満子さんの声は険しい。
先輩は唇を噛んで、ゆっくり肯いた。「はい」と。
「遙音くん、僕たちなりにだけど、君の支えになりたいと思っている。神宮先生たちみたいに助けることは出来ないかもしれないけど……僕たちに、遠慮はしないでほしい」
「……ありがとございます。笑満ちゃんのご両親に――おじさんとおばさんに、そう言ってもらえて嬉しいです」
やっと、先輩は少し柔らかい音になっている。
「神宮先生」
と、生満子さんが流夜くんの方を見た。
「遙音のこと、ありがとうごいざいました。先生方のおかげで、笑満は遙音に逢うことが出来たんですね」
進学するつもりはなかった――先輩は、はっきりそう決意していた。
それを覆させたのが、流夜くんが教職に進んだことだ。
「いえ。遙音の意志あってのことです。それに、遙音が施設を出て数年は、二宮さんのところで預かってもらっていましたから」
「二宮さん……出来たらその方にもお逢いしたいのですが……」
「………」
流夜くん、黙った。声を挟んだのは降渡さんだった。