「咲桜ちゃん。流夜には主咲と逢ったこと、言わない方がいい」
「え……なんでですか?」
「流夜は主咲が苦手だから」
みたいですね。
降渡さんも苦手なようだし。
……吹雪さんの言う通り、言わないでおこうか。
訊かれたら答えるけど……あえて触れたくはない気がする。
「ふゆ――
「笑満ちゃん」
言い差した笑満を遮って、吹雪さんが口元に指を立てた。
「咲桜ちゃんが主咲のことを知れたのは、流夜との間に未来をかけているからなんだ。笑満ちゃんも、遙音と結婚とかしたら、知っていい話なんだ」
「え―――」
ボンっと、笑満が顔を真赤にさせた。吹雪さんは微笑んでいる。
「け、けけけ」
「だからその人のことは今はまだ内緒。いいかな?」
笑満は紅い顔のままでこくりこくり肯いた。吹雪さんのやり口にはまっている。
視線だけで私を見てきた吹雪さんの瞳は、何かを案じている風だった。
カランと、軽い音が鳴った。二人分の足音が聞こえた。
「お呼び立てすみません。松生さん」
流夜くんの声が聞こえて、私と笑満も扉の辺りに覗きに行った。
休憩室の扉は横開きなので、フロアから見えても扉が開いていることで目立つことはないだろう。
「いえ……笑満のことですよね? えっと……」
「神宮です。一年の副担任をしています」
「え?」
生満子さんから間の抜けた声がした。
入学式とか、憲篤おじさんよりは生満子さんの方が学校に来ているはずだ。
だから『神宮先生』の顔も知っているのだろう。
「えっと……神宮先生?」
「はい」
「えー、と、あの……学校で見た方と随分、その……違う様な気がするのですが……」
「生満子おばさん、ほんとに教師の神宮です。……うちの事件を解決してくれたのも、この人なんです」
「え――」
「正確には俺以外にもいるんですが。あそこにいる奴とか」