私が関わることは、流夜くんはどこまで拒絶する。

事件のことなんてちらとも話してくれない。

相談相手になる知識も器量もないとわかっているけど、一般的な意見の一つも求められたことはない。

手を跳ねのけられることのない、初めから背中を向けた拒絶。その世界を見せてもくれない。

……降渡さんと吹雪さんと、弟と呼ぶ子だけ、隣をゆるして。

「それとね、笑満」

笑満が摑んでいた手をそっと解いて、両の手先だけそっと握った。

「笑満の所為で大変な目にあうとか、傷付くとか、それでいいんだよ」

「だ、――だめだよ! そんな迷惑かけちゃ」

「そりゃあ、無際限とは私も言わない。でも、私や遙音先輩や、ついでに頼とか、笑満のことすきな人はね、笑満が傷ついてれば自分が傷つくことも出来るの。……他人のために心痛めるってね、誰に対しても出来るものじゃない。ほんとーに大事な人にしかゆるさない領域だ。――だから、安心していなさい」

今なら言える、弱さを肯定する言葉。笑満は唇を噛んだ。

「……予定変更かな。約束違反だけど、見守りに行く?」

「「……え?」」

私の言葉に、笑満と頼はそろって瞬いた。





「あはは。そっかそっか。咲桜ちゃんに笑満ちゃんは撒けないよなあ」

「すみませんでした。せっかく考えてくれたのに」

腰から折って頭を下げる。

頼はいつものぼーっとしたカオになっていた。

笑満は私の行動の意味がわかりかけているようで黙り込んでいる。

そして途中で捕まえることに成功した当事者は―――

「いいよ、気にしないで。俺らも大体行き当たりばったりでやってきたから」

《白》のカウンターの中でからりと笑うのは、タブリエ姿の降渡さんだった。

今までも龍生さんのお手伝いとか言ってカウンターの中にいるのを見たことはあるけど、軽く腕をまくってジャケットを脱いでいるくらいだったのに、今日の降渡さんは一言『店員さん』だった。

笑満と頼を連れてやってくると、遙音先輩が入り口をうろついていた。危ない人か。

「入りますよ。先輩」私が言うと、びくりと肩を跳ねさせた。

降渡さんと連絡を取って拾ってくるように指示されたのは、遙音先輩だった。

唇を引き結んで出会い頭に、「笑満ちゃん……」と一言呟いて以来口を開いていない。