珍しく聞く大きな頼の声に振り返った。

笑満を少し離れたその場に置いて、一人で歩いてくる。なんでいる?

「頼? 笑満も――

「帰るよ、咲桜。急いでんだろ」

怒った口調の頼が、私の腕を摑んだ。

「えっと――で、では」

「ええ、また」

司くんは最後まで悠然としていたのに対して、何故か頼が焦ったような顔をしている。初めて見る顔だ。

司くんから離れて、まだ笑満の許までは着かない間に、頼が鋭い瞳を見せた。

「咲桜、あれが誰だか知らないし興味ないけど、近づかない方がいい」

「え? どうしたの」

「あれは普通じゃない。支配階級の生き物だ。俺たちとは、世界が重ならない人種」

「………えーと……」

困った。なんだその中世の仕組みみたいな言いようは。

「……支配側の中でもトップ――最底辺じゃねえか。くそ、タチ悪ぃ」

頼は珍しく――本当に珍しく感情の起伏を面に見せていた。チッと舌打ちつき。私は首を傾げた。

「……トップなのに底辺? しかも最底辺ってなに」

「………」

頼は機嫌が悪そうな顔で手を放して、ふいっとそっぽを向いた。

「カレシに訊いてみたら? あの人のが咲桜にわかりやすい説明くれんじゃない? IQ測定不可能なんて俺は出したことないし」

「な――何怒ってんの? 私が何かしたなら言ってよ。直すから」

笑満の方へ歩く頼を追う。頼は憤然と歩を緩めない。ん? 何が測定できなかったって?