「え? ――あ、はい」
なんと、葉擦れが咲桜のせいで起こってしまったみたいだ。
青年が私を向いて声をかけてきた。小走りだった足も止まる。
青年はやはり感情を見せず、無表情でこちらを見遣る。
な、なんか、怖い……。
人間離れしているというか……やはり温度が見えないのは、正直やりにくい。
せめてその口の端に笑みでも見せて、無表情を崩してくれたら――……あれ? なんかどっかで聞いたようなワード……?
「初めまして。先日はさくが失礼致しました」
「……さく?」
誰?
私が眉を寄せると、青年は驚いた様子もなく応じる。
「ああ、大和斎月と名乗ったかと思います」
「やま――斎月? あ、はい。と言うか斎月に失礼をしたのは私の方ですが……」
流夜くんの近くに女性の姿を見てしまい、家族扱いするほどなら教えておいてほしかったと騒いだのは私だ。
けど斎月のどこをとったら「さく」なんて呼び方になるのだろう、と頭の半分で考えつつ、背筋を伸ばした。
ひんやりした青年の雰囲気に圧倒されて、居住まいを正した。
「今、急がれていることは承知しています。一分でよいので、お時間をいただけないでしょうか。少しお詫びをしたく」
「え? お詫び? あの……どなた、ですか?」
青年の言うように、時間がないのは本当だ。
まさかくれた指示に関係しているのだろうか。
問うと、青年は袖の中で組んでいたらしい腕を解いた。
「司國陽(つかさ くにはる)と申します。伺ったのは、現在咲桜さんが抱えられている件とは関わりはないので、どうぞご案じなさらずに」
青年――司國陽は、目元一つゆるめない無表情でそう告げた。
「つかさ、さん、て――斎月の彼氏、のですか……?」
流夜くんも斎月も降渡さんも、『つかさ』という名をそういう意味で呼んでいた。
斎月の彼氏も年上だったのか。
司さんは一拍置いて、軽く肯いた。