頼については何も書かれていなかったので、笑満が一人で泣かないように頼に送り届けを頼んだ。
頼が私や笑満のところに遊びに訪(おとな)うこともよくある。
大概は三人そろっていたが、今日は私が一人離れる。
拾う相手がいる場所の見当も、指示があったので真っ直ぐに向かおうとして――鞄を押さえて小走りで向かっていると、何やら素通り出来ない人物が道の傍らに立っていた。
と言うか、見過ごせないと言うか――チラ見くらいはしないと傍を通れないような人物。
着物に羽織の男性が佇んでいた。
袖の中で腕を組んでいるような立ち姿で。
……素通りするには場違いすぎた。片田舎に足半分突っ込んだような場所で見るには。
書道の大家や、茶道華道舞踊の家元だろうか。纏う雰囲気が静かで重い。
場違いさが気になりそっと伺うと、若い青年だった。
……ま、まあ若い高名な書家もいるし、二十代でも宗主とか継げるし……? うん、面差しが若くても、一般のレベルではない雰囲気。
背は私より高く、容姿は画を切り取ったようにつくりものめいて端麗。
文字通り、端々まで麗しく隙がない。
斜め上の空を見上げていて、私の視線には気づいていないのかそのままだ。
流夜くんは『美形』と称されることが多いとマナさんから聞いたことがあるけど――ついでに教えてくれた、三人の称を並べると、降渡は『美丈夫』、吹雪は『美人』と言われるそうだ。最後は言ってはいけない一言なので、その称され方も高校以来聞かれなくなったそうだが――三人の方が人間じみている。
表情と体温と感情が見えるつくりをしているのに対して、青年は一切合切の感情も体温も持ち合わせていないように、しんとそこに立っている。
ただ、そこにいることが当たり前のように。
樹が、葉擦れ以外に揺れることなく泰然と構えているように。
ふと、青年の視線が下がった。
私はまだ青年の手前にいて、一瞬焦ってしまった。
いや、別に見ていたからと言ってそう怒られることもないはずだけど……怒られたら謝ろう。
今、自分は急がないと、
「華取咲桜さん、でしょうか」