先輩から、地を這う様な声が聞こえた。降渡さんの肩が揺れた。

「あ、はる――

「あれが神宮の相棒なんだな?」

俯いたままの遙音先輩。怒髪天の吹雪さんにも困っている降渡さんが、「そうだ」と肯いた。

ギリッと、顔をあげた先輩が鋭い眼差しを見せた。

「――上等じゃねえか。あの女男、超えてやる」

怒りや失望ではない、挑戦的な光。その言い方をするならせめて男女なのだけど――と訂正しかけた私だけど、それは言わないでおいた。

流夜くん、吹雪さん、降渡さんという憧れがあっただけの先輩。目標にして、そこへ近づこうと。

――憧れてしまえば、超えられはしない。斎月に対して抱いた『超える』という感情は、先輩を流夜くんたちよりも高みを見せるだろう。

絆さんという、私が目標にした、先にいる人が出来て、私も憧れや目標の存在感がわかってきていた。

ごつん。

「痛っ、何すんだよ親父!」

それまで傍観者に徹していた龍生さんから、先輩が一撃を喰らった。先輩の呼び方はもう染まっている。いつも微笑ましいなあ、と思う。

「いや、お前がすげえことほざいてっから、頭は正気かと」

「う……やっぱあのトシで神宮と並び称されるレベルって……ハンパないってこと?」

「そりゃあな。斎月の小娘は世界に通用するぞ。だがまあ――最初っから尻尾巻いてるよりゃあいいか」

頑張ってみろよ、と龍生さんは、今度は軽く先輩の額を小突いた。

「そうだよ、その勢いだ遙音! あんな女男なんざぶっ潰してしまえ!」

「お、おう……? 春芽にそんなテンションで応援されるなんてむしろ心配だけど、頑張るしかねえな!」

「僕も徹底的にお前の応援してやるから!」

吹雪さんのヘンなテンションにつられるように、先輩も勢いづいている。こそっと降渡に訊いた。

「吹雪さんどうしたんですか?」

降渡さんは苦笑気味に答えてくれた。