大学へは行かない。二年生のはじまり、四月に、笑満や頼にも宣言した。二人から反対はなく、力になることがあれば、と言ってもらった。
じゃあお言葉に甘えて最初のお願い、として、『頼、流夜くんの写真撮って来て』と言ったら『あの人は無理。俺の範囲外』と消極的な反応があった。
頼が執着対象者の写真を諦めるなんて……いなくなる前に何かしら、頼に話でもつけていきやがったか。
今日は降渡さんと吹雪さんが、時間があると言ってくれたので、《白》の一隅を借りてノートを広げていた。
二人も教師の資質あるんじゃないかと思うくらいわかりやすい説明で展開してくれる。
遙音先輩は卒業前には龍生さんの養子になる算段が整っている。
龍生さんと二人で話して、大学への進学を決めたそう。
傍ら、《白》の跡継ぎとしても修行中。そして笑満も《白》での接客を勉強中だった。
今は先輩と並んでカウンターの中にいる。龍生さんがコーヒーの淹れ方を笑満に教えてくれていて、今日もカメラ常備の頼はそれをカウンター席から眺めて写真に収めている。
そんな、のんびりした空気に一つの声が響いた。
「咲桜姉様―!」
「い、斎月⁉」
《白》への急な来訪者。大和斎月。流夜くんの相棒にして弟。
やばー! ここ遙音先輩いんだけど! 私が知る限り、まだ先輩と斎月の間に面識はないはずだ。
「いらっしゃいませー。咲桜の知り合い?」
案の定、カウンターの中の先輩が私に訊いて来た。
「はじめまして、夏島さん。将来的に咲桜姉様の妹です!」
ややこしいバラし方するな! そして斎月の方は先輩のこと把握済みか! やっぱりな!
先輩はきょとんとして瞬いている。
……うん、これが深い『流夜くんたちと遙音の差』か。
「咲桜ねえさま? 咲桜ってきょうだいいたっけ?」
「ええ⁉ あたし知らないんだけど! 咲桜! いつの間にそんな子が出来たの⁉ あたしに飽きたの⁉」
「そんなわけないでしょう! 私の女の子の一番は笑満だって!」
もっとややこしい誤解を生みだしている幼馴染(わたし)たちに、吹雪さんから一喝が降りた。
私、笑満、頼と斎月、とばっちりで先輩まで、正座。
吹雪さん仁王立ち。