「夜々さんは聞いてもらう側だから、父さんの方座って。今日は私の味方じゃなくて、聞いてほしいの」
「……どうぞ、夜々ちゃん」
咲桜が夜々ちゃんに、私の隣を示す。夜々ちゃんが少し困った顔をしたので、こちらから招いた。
夜々ちゃんと隣に座り、L字の一方に咲桜がつく。
「進路相談、なんだけど、私、大学には行かないで仕事に就こうと考えてます」
「……それは、その……迷惑だとかそういうことを考えて?」
私の控えめな問いかけに、咲桜は首を横に振った。こんな言い方もしたくないけど……。
「ではないです。そういうことを、全く考えてないわけではないけど……。出来るだけ早く――目標は高校生のうちに、行政書士の資格をとる事です」
「行政書士?」
いきなり出て来た単語に、オウム返しに訊いた。夜々ちゃんも瞳をぱちぱちさせている。
「絆さんから教えてもらったんです。今は先輩と二人で事務所をやっているそうで。行政書士なら学歴は問われないし、場所も問わない仕事だって教わりました。――追うために、私は大学には行きません。法律家ならば、流夜くんの仕事の、どこか役に立てるかもしれないし、どこにいようと追って行けます。勉強が苦手とか、言い訳は通用させません。私はあの人の傍にいたいです。……結婚とか、できなくてもいいです。ただ、一緒にいたいです。お願いします。私の父親は、在義父さんだけだから、反対しないでください」
咲桜が、深く頭を下げた。
諏訪山くんが教えたという、一つの道。行政書士。
「……それは、咲桜が選んだ道なんだね?」
「はい」
「なら、私は反対はしない。ただし」
「……はい」
「やるからには、本気で挑みなさい。言い訳が通じる相手を、咲桜は好いていないだろう?」
あの流夜くんに、言い訳なんて。
咲桜は凛とした眼差しで答えた。
「はい。ありがとうございます」
通じないだろう。さすが、俺の娘。
いばらの道を切り開いてゆけ。