「お気に召したのならありがたいです。あ、呼び捨てで大丈夫ですよ? 堅苦しいのも苦手ですし」
「そう? じゃあ咲桜って呼ばせてもらうわね」
「どうぞです」
味見もどぞ、と小皿にスープを盛って渡す。口に含んで、絆さんはぱっと顔を輝かせた。
「咲桜っていいお嫁さんになるわね、美味しい!」
「そんな」
私の顔もほころぶ。そう言ってもらえると、やっぱり嬉しい。
……絆さんは私の好きな人を知らないし、降渡さんからもれることも絶対ないだろう。幼馴染三人の仲は頑強だから。
真正面から褒めてくれる絆さん。そして中心核の近くにいながらも、私のことは知らない人。……なんとなく、話したくなってしまった。
「……あの、ですね、絆さん」
「ん? なにかしら」
「私……すきな人がいるんですけど、その人、今、近くにいないんです」
「……うん」
私のしんみりした語り口に、絆さんも真剣な顔になる。
「私は、その人と一緒にいたくてですね……。どうにか追いかけたいと思ってるんですけど、たぶん今のままの私では、見つけ出しても、傍にいさせてくれないと思うんです」
「ふむ」
「その人は……犯罪学の分野で生きていて、私では、ダメだって言われました。普通の世界にいる、今の私では……」
「犯罪学? なら法律家になっちゃえば?」
絆さんの何の躊躇いもない提案に、私は顔をあげた。
「法律家、ですか? 絆さんみたいな弁護士?」