「まー流夜の場合、それで人格に問題があったり社会的に悪影響及ぼしているわけでもないから、僕らも放っておいてるけどね。むしろ流夜の立場で今ほどの活動をしようとしたら、そのくらい分けて考えられた方がいいのかもしれない。問題は、それを意識的に操れていないってことかな」
「意識的?」
「被害者遺族としての『神宮流夜』と今の自分を意識的に操れたら、流夜は過去の自分と、和解あるいは決別が出来る。決定的に変わることが出来る。操るってのはその対象を認識して意識すること。置いて来た『子どもの流夜』を今の自分の中に一度迎え入れないといけないからね。そのまま受け入れるかどうかは、流夜次第だけど。……受け容れるか排除するか、過去にあった『真実』と向き合わなくちゃ――いけない」
流夜くんがうちを訪れることは少なくなったけど、時間があるときはやってきていた。
狙って二人きりになったり、前のように抱き寄せたりはしない。師とその娘。流夜くんは現在、私にそういう態度で接することを決めているようだった。
まだ、考えている途中だから。
「在義さん、今日は?」
「遅くなるみたいだよ。急な用事でもあった?」
「いや……咲桜に、話があるんだ」
今日もいつも通り、ご飯を食べに来ただけだと思っていた私は、軽く瞬いた。
「なに?」
流夜くんは、私を正面に捉えた。
「藤城を離れて、行く場所が出来た。……行き先は教えられない」
「――なんで?」
「……そろそろ、咲桜は自分のために生きてほしいと思うからだ」
「……私、自分のために、ってか、自分の生きたいように生きてるよ?」
「じゃあもっと言うと、咲桜の将来を、俺を含めて考えないでほしい」
「―――なんで? 考えて、いいんじゃ……どうするか、て」