「………」
考える時間はある。今は高校一年生。
「吹雪さん」
声は凛と響く。
「ありがとう、ございました」
深く礼をする。吹雪さんは「うん」と答えた。
「どういたしまして」
「はい。その……これからも、よろしくお願いします」
私が一瞬詰まりながら言うと、吹雪さんは右手を差し出した。握手を求める形。
「勿論。こちらこそ、よろしく。僕の戦友」
「………はい」
同じ道を、歩く人。ならば、そう呼んでもいいだろうか。
私も、あなたを。
手を、握り返した。
+
窓から華麗に出て行った吹雪さんを見送ると、夜々さんたちが戻って来た。
「猫柳って……龍生さんの苗字、ですよね?」
私はまだ、先輩が話した事態が呑み込めずに問う。
「うん。二宮さん……龍生さんの、養子にならないかって、言われた」
「養子? えっと、二宮……じゃなくて、本名の、猫柳のってことは、龍生さんの息子に? なるの?」
笑満が確認するように言うと、先輩はゆっくり肯いた。
「そういうこと。龍生さん、やっぱり……光子さん以外とは結婚するつもりないみたいで、『ここも後継者いなから』って。……俺も親戚とは断絶してるから、俺が養子に入ることは問題ないんだ」
「……問題ない、ってことは、先輩の気持ちはもう傾いてるの?」
「うん。龍生さんのとこで暮らした一年ちょっとは、本当勉強になることばかりだった。だから、俺はむしろそれを――……望んでいたのかも、しれない。ただ、こんな重大なこと、自分から願い出ることは……出来ていなかったけど」