誰にも話せないこと、ではなかった。

笑満にも夜々さんにも話している。在義父さんにも。

気恥ずかしいのと、申し訳ないの。

不安に苛まれていたけど、傍らに夜々さんがいてくれたから、高校に入る前に、在義父さんにも相談していた。

在義父さんは、私の嗚咽まじりの話と、夜々さんの説明を聞いて、

「そう。……今まで、言えなくてごめんな?」

そういうことを話せる環境を作らなかったことを、むしろ詫びられた。そうして、

「私は咲桜が娘だという、それだけで十分だ。だから、咲桜は自分の心と話していい。私や夜々ちゃんや、箏子先生のことは気にしなくていい。笑満ちゃんに話すことは、咲桜がどうするか決めることだ。話すも、話さないも。……咲桜は、自分の心と身体を一番に考えて、大事にしてあげなさい」

……そう、頭を撫でられた。

どれほどの人を父に持ったのだろう。

もう嗚咽では済まなくて、泣きながら何度も肯いた。ありがとうと繰り返した。

一番に私を傷つけない道を示してくれるのは、いつも在義父さんだった。

笑満には、夜々さんから聞いた症状の話を、全部した。

笑満と頼は同じ幼馴染、親友だけど、位置は全然違った。

笑満は、私だった。

話を聞いた笑満は、固い表情で唇を引き結んでいた。そして、私に抱き付いて言った。

「心配しなくていいよ。あたしが咲桜の分まで、たくさん赤ちゃん産むから! だから、咲桜にも子育て手伝ってもらわないといけないくらい、たーっくさん! 産んじゃうから!」

まだ、永い片想いを遙音先輩にしていた頃の笑満の言葉だ。

このとき私は、笑満の傍らには遙音先輩を想像しながら、笑満の断言に微笑むことが出来た。

大丈夫。私は、こんな病気があっても大丈夫なくらい、強い人たちに囲まれている。

赤ちゃんを産む、産まないは、女性だけの判断ではない。

夫婦のものだ。

巡り合って愛し合った二人の決断。

他の人が立ち入るべきではない、神聖ですらある領域。

……だって、子供は絶対に授かれるものではないし、赤ちゃんを産むことは命がけだ。

お産で儚くなる母親だっている。

命をかけて、女性は子供を産むのだ。

それを、支えてくれる家族の存在もあって。