「そうだね。マナちゃんは僕の父親の妹だから、叔母だ。だからこそ、今回の咲桜ちゃんのことに僕も珍しく本気で対応したわけだけど――。……だから、僕がマナちゃんをすきなのは、僕の命への言い訳、かもしれない」
「………」
吹雪さんはいつものように、感情の読みにくい笑みだ。
「僕ね、XYYなんだ」
「……え、エックス……?」
数式だろうか? 意味のわかっていない私に、吹雪さんは説明してくれた。
「うん。XYY性染色体異常とも言う。一般的な男性は、XY性染色体だ。僕は性染色体が通常より、Y染色体――つまり男性性染色体が一本多いんだ。XXY性染色体異常ってのもあって、これはクラインフィルター症候群って呼ばれる。一時期はこれらが犯罪の――と、これはちょっと脱線するね。時間ないんだった。ともかく僕はそういう生まれつきのものがあって、これは―――……無精子症候群を引き起こすんだ。最近では、XYYでも子どもが生まれる例も確認されてるみたいで百パーセントではないけどね。……女性の咲桜ちゃんにこういう話をするのは気が引けるけど、本当のことなんだ。……ごめんね?」
「い、いえ―――」
吹雪さんが、急に私にそんな話をしてくれるなんて……。
「僕は先天的に、そうだ。子供はほぼ望めないと考えられる。でも、咲桜ちゃんは可能性あるんでしょ? だったら、……わかるでしょ? 僕の言いたいこと」
「………」
私は唇を噛んで――さっきとは、違う強さで――大きく肯いた。
同じ――近い立場に、立たされた人。
目の前にいるのは、そういう人だ。
ずっと、悩んでいた。笑満や同級生には当たり前のようにあって、学校では授業もあって、夜々さんなんかはそれが専門に近い人で。
……自分には、なくて。
夜々さんや笑満には、自分から話したのではなく、訊かれて答えたのが最初だ。
皆がそうではないらしいけど、背が高いとか成長の早い女子には一般に比べて早期に発現することがあるようだ。
私は小学生の頃から背が高い方だった。
在義父さんと血の繋がりがないと知らない周囲は、在義父さんや桃子母さんが長身の部類だったから、違和感はなく接してきていた。
でも、それを知っている笑満は、中学一年の頃に訊いて来た。
そのときは笑って流れた話。当時の私が、そういう先天性異常を詳しく考えていなかったのも真実だ。
夜々さんに訊かれたときも、「まあ個人差はあるからねえ」で終わった話。
しかし今は高校一年生――十六歳。すでに初潮があって、普段の生活の中で生理不順が起こることがある年代だ。
むしろ二十歳くらいまでは、周期が整わないなどの不調はあるそうだ。
私は、それすらない。前提条件がないのだ。