「だって衛、雅が剣さんと結婚するって聞いたとき、『自分が剣さんをすきだから認めない』とか言ったんだろ? 大事故起こしてんじゃねえか」

「それ蒸し返すんじゃねえよバカ! ちょっと言い方間違えただけだろ!」

「いやー、あのあと雅が衛を目の敵にして大変だったよねえ。彼氏が男に狙われてる、て思っちゃってさあ。仲良し初代Pクラスの黒歴史、衛の大自爆」

「だから言い方間違っただけの雅の誤解だっつってんだろ!」

吹雪さんの言い方に、衛さんが額に青筋だてて叫ぶ。

「みやび?」

初耳の名前。私の疑問に流夜くんが答えた。

「霧原雅。衛たちの同期で、フロムの剣さんの嫁。旧姓は祀木雅。剣さんとは、雅が十八になってすぐ結婚した。今は刑事」

「えっ、羨ましい!」

私が秒間もなく返すと、流夜くんは微苦笑した。

何が羨ましいと思ったか、この人には筒抜けだ。

「咲桜、フロムって、前に行ったっていう?」

「そうだよ。猫さまのお一人」

私と笑満の間にのほほんとした空気が漂っている。

衛さんはぶつくさぼやいた。

「くっそだからお前らみたいな性悪ガキの頼みなんか聞きたくねえんだよ。華取さんの娘が泣いてでもしなかったら門前払いだぞ」

「え? 私?」

私が自分を指さすと、衛さんは「そう」と応えた。

「吹雪からの依頼で、神宮家のことを調べさせてもらった」

「……吹雪?」

「うん。僕より衛のが顔広いし行動範囲許されるし。でも早かったね。衛忙しいからもっとかかると思ったよ」

「帝を遣いっ走りにしたに決まってんだろ」

「みかど?」

私がまた反復すると、流夜くんが教えてくれた。

「草賀帝。衛の同期。尊の双子の兄で、衛大すきな衛のストーカー」

「それも持ってくんじゃねえ性悪! もう終わった話だ!」

衛さんは相当苛ついているようだが、流夜くんは引きもしなかった。