水をかけられそうになった神宮の前に立ちはだかったのは、俺と咲桜だった。
「さ――」
し、と何気ない動作を装って、神宮に向けて口元に一本指を立てて見せる。
その呼び方をするなと。
頭にかかった水を手で弾きながら言う。
「わりーんだけど、神宮がべた惚れしてる婚約者って朝間先生じゃないし。神宮が素顔さらさなかったのって俺の所為なんだよ。理由聞きたいなら話すけど、こいつが水被る理由はねえ。勿論咲桜も」
俺の言葉に、水をかけた三人のうちの一人は反論する。
「でも――神宮、婚約者いるって公言してるし、夜々子先生と密会してたぞ⁉」
「いやちげーって。神宮の婚約者って朝間先生の身内なんだよ。朝間先生もその人溺愛してるから、この二人最悪に仲わりーの」
「え……そうなの?」
「そうですよ」
空気を裂くように答えたのは朝間先生だった。
「騒がしいと思ったら水被ったのが三人ですか。保健室に来てください。風邪をひかれては大変です」
静かに宣言されて、仕掛けた生徒はバツが悪そうに視線を彷徨わせる。
「あと、俺の家族がみんな死んでるの、知ってるヤツは知ってんだろ? それがまあ、事件でさ」
急に内容の変わった俺の言葉に、空気がざわついた。
笑満ちゃんが止めようとする気配がわかったけど、続ける。
「それを解決してくれたのが当時高校生の神宮たちでさ。それ以来世話んなってるから、神宮とこの前来た雲居と春芽、俺の育ての親みてーなもんなんだよ」
「え……」
「神宮たちは、自分らと関わりがあるってバレたら俺が大変だからつって、他人通すことにしたんだと。今バラしちゃったけど。言っちゃえば、俺が高校入る気になったのも神宮が教師になったからなんだけどな」