咲桜の出生が発覚して、二人は恋人を終わりにした。
今回ばかりは神宮は、笑満ちゃんから俺にことの経緯を話すことを許していた。
きっかけの現場に居合わせた身でもあるからだろうか。
それでも華取さんと二宮さんの後継者という神宮の立場は変わらなかった。
その神宮を師事している俺であり、咲桜の親友の笑満ちゃんの彼氏という立場だ。
冬休み中に華取家を訪れる機会があった。
その折、朝間先生が咲桜のお隣であると知り、更に咲桜溺愛の母親代わりで神宮を目の敵にしているとも。
なんでそんな話が出たんだと思い――たぶん咲桜の関係で二人が逢っていたところを――あいつらが逢うなんてことをするわけがないから、出くわしたというのが正しいかもしれない――、素顔が知れたゆえに神宮だとばれたのだろう。
今までだったら、夜々子先生がイケメンと一緒にいたー! とかいった騒がれ方だったろう。
大体、神宮の瞳に咲桜以外の女が映るわけがねえ。
恋人や婚約の解消を余儀なくされても、神宮は咲桜を想っている。
二人が並べば、雰囲気は前と変わらない。
そんな神宮にとって朝間先生は、いいとこ敵認定だろう。
「でさ! 神宮先生婚約者いるって公言してたじゃん? 夜々子先生だったんだよ!」
いや、朝間先生のお隣の咲桜だったんだ。
そう言い張りたいが、土台無理な話だった。
かなりもてるのにどうして結婚しないと謎だった朝間先生の恋愛話に、そこらじゅうが浮足立っている。
こんだけ騒がれたら……あの二人また喧嘩しそうだな……。
華取家にお邪魔したとき、神宮と朝間先生は人目もはばからず言い争っていた。
神宮と対等に言い争える存在って結構貴重。
でも、せめて学内では大人しくしてくれないだろうか。
神宮も朝間先生もいい大人なんだから。
咲桜の方は、神宮の相手が朝間先生と知れれば心配することないだろう。
朝間先生が溺愛しているのは神宮ではなく咲桜だから。
しかし、『天使』と言われるほど慕われている朝間先生の人気も、半端なものではなかった。
「夜々子先生を奪っていく罰ですよ――」
バシャっと、大きく水音が神宮に向かった。
廊下にいた生徒に声はなく、バケツが落ちる音だけが響く。
「な――んで、……お前が水被るんだよ――」
「いや、朝間先生と神宮がってとんでもねえ誤解だし――って、咲桜までぶっ被ったのかよ!」
「あ、なんか反射的に!」