「なんも食ってないんだったら……粥とかのがいいのか?」
「うん……」
笑満が食べ物を勧めてくれることはあったけど、飲み物を少し口に入れただけで、それには応えられなかった。
流夜くんが現れたとき、そっと笑満が背中を押してくれた。その勢いで、その胸に飛び込むことが出来た。
……帰ったら、笑満にも在義父さんにも、謝らないといけない。
心配をかけて、ごめん。
流夜くんの許へ送り出してくれて、ありがとう。
「そう言えば最初もお粥作ったね」
「最初?」
「私がここへ来た最初。流夜くんが床に包丁付きたてたとき」
「ああ……怪我なくてよかった」
流夜くんは苦虫を噛んでいる。
「あのときさ、言ったでしょ? 吊り橋効果で――とか」
「言ってたな」
「どうだったのかな。……あのとき、もうすきだったのかな」
「お前は大分鈍いからな。俺はもうすきだった」
「そうなのっ?」
「そうだよ。知らないけど」
「どっち?」
「……さあな」
「むー。そういうとこ、摑みづらくするよねえ」
「俺は性格悪いから」
「そうなの?」
くすくすと笑いがこぼれる。今だけ。今だけでいい。
……楽しい時間が、ほしい。
「ああそうだ。一つ、言い忘れてた」