「あのな、真理亜は、真理亜だろ。長くていいじゃん。俺は」

「変わるかもしれないじゃんっ」

気づけば、春馬の言葉を遮って、私は大きな声を出していた。

来年からは、春馬とは別々だ。春馬だって変わってく。

私だけが、変われない。私だけが、変わらないのは嫌だった。

春馬の声を遮って、吐き出した言葉と一緒に、あっという間にコロンコロンと、涙も転がってく。春馬が、ほんの少し困った顔をした。

「……だから……真理亜は、そのままでいいんだよ……何がダメなんだよ?」

「……だって私、このままじゃ……ひっく……何も変わらないから。せめて見た目位、変えたいよ……夢もないし、恋だって……ぐすっ……全然うまくいかないし……春馬とは違うもん」

「……だからって」 

小さくため息を()くと、春馬が、両手を腰に当てた。

「泣くなよ」

春馬は、棚から石鹸の匂いのするタオルを取り出すと、私の膝にそっと置いた。私は手に取って涙と一緒に鼻水も拭いた。いつまでも泣いていられそうだったけど、私は泣くのを止めて深呼吸した。

今日切らないと、決心が揺らぎそうだったから。

「早く切ってよ」

鏡越しに見た春馬は、いつもなら、はいはいとすぐに私の髪に手を掛けるのに、今日は、腰に手を当てたまま、黙って私を見ていた。

「それも真理亜の言う、『恋愛のススメ』の定義?」

「え?」

春馬の口調も眼差しも、いつもと違って見えて、鼓動がすこし早くなる。

「ドキドキしてた、恋愛が、うまくいかなかったら、髪切って、吹っ切るってやつ?」

「えと、それは……」

「なぁ、そんなに橋本先生が、好きだったのかよ?真理亜の、先生に対するドキドキする理由って、何だったんだよ?」

「それは、……先生は大人だし……タバコも吸えるし……お洒落だし」

そこまで口に出して、先生の見た目ばかりしか出てこないことに気づく。多分、先生の事が、すっごく好きだった訳じゃない。でも、高校生の私より、随分大人に感じて、タバコを吸う仕草一つで、ドキンとして、私は、『恋愛のススメ』の定義に、橋本先生を自分勝手に当てはめていたことに気づいていなかった。

ーーーーそして、その恋の定義が、そもそも間違っていることにも。