「わぁ……お姫様みたい」 

「自分で言うのかよ」

私が、持ってきた青と紫の蝶々の飾りピンは、手でそっと触ると、纏められた髪の右後ろの方にセンス良く挿してある。

「綺麗じゃん」 

春馬が、ニヤッと笑う。 

「……ありがとう」

何だか、春馬がズルくみえて、よくわからない感情が先走って、拗ねるように言った私の頬を春馬が、人差し指で突いた。

「専属美容師のおかげだからな」

幼なじみってよくわからない。生まれた時からずっと一緒。家は真向かい同士。幼稚園も、小学校も中学校も市内に一つしかない公立高校も、勿論、ずっと一緒だ。

当たり前みたいに春馬が居た。一緒に居すぎて、居心地はいいけど、ドキドキする恋愛関係というものには、私達には、当てはまらない。

恋ってドキドキから始まって、目が合うだけで、話すだけで、ドキドキが止まらないモノだから。

もし、そんなドキドキを春馬に感じて、私がドキドキする理由が、春馬だったら、『恋愛のススメ』なんて、馬鹿げた指南書なんて、必要無いくらい、恋なんて簡単なのに。

「はぁーあ。結局高校も三年連続、俺、花火見るの真理亜と一緒なんだけど、どーしてくれんのっ?」

「知らないよっ、そんなのっ」

「俺、こう見えてモテんだけどなぁ」

春馬が、唇を引き上げながら、両手を首の後ろに持ち上げて、目だけで笑った。

「もっと可愛い女の子と行きたきゃ、そうすれば良かったじゃん」

ダメだ、口からは、思ってもない事ばかりが飛び出してしまう。春馬がモテるのは知ってる。でも、私はモテるなんて認めたくない。だって私は、春馬にドキドキの一つもしたことないから。春馬に恋なんて、きっと一生することなんてないんだから。

ーーーーそれなのに、春馬が他の女の子と行く事を想像しただけで、ほんの少しだけ、心の中に、藍色の気持ちが、巣食う気がするのは何故だろう。

「あっそ。真理亜がひとりぼっちで花火行くの可哀想だから、他の誘い断ってんだけど?」

「可哀想?本当、春馬は、デリカシーないよね」

精一杯、なんて事ない顔をしながら、肘でツンと痛くない程度に突いてやる。

すると、イテテと大袈裟にしながら、春馬が小さく返事をした。

「ま、来年も真理亜に相手居なくて、俺も予定なければ付き合ってやるよ」

「え……?」

「ま、真理亜には、どうでもいいことだろうけど」

春馬が足元の小石を蹴飛ばしながら、ボソリと呟いた。

来年か……。今日は、高校最後の花火大会だ。
卒業すれば、春馬は、美容専門学校に通う。私は、一緒には行けない。来年から、春馬は、私の隣には居ないんだ。来年から、春馬の隣には私の知らない、どんな人達が居るんだろう。

毎年見に来た花火も、春馬と見るのは最後かもしれないと思うと、何故だか、春馬が遠くなっていくのを感じて、胸がちくんとした。

「来年の花火こそ、とびきりカッコいい彼氏と行くんだから」

ちくんとした胸を誤魔化すように、にんまり笑った私に、春馬は愛想なく、はいはい、とだけ答えた。