「綺麗じゃん」

今日の春馬の指先は、私を人生で一番綺麗にする魔法を使う。

うなじから、指を挿し入れて、私のくせっ毛をくるりと巻き上げると、真珠のピンで挿し止めていく。大嫌いなくせっ毛も、春馬の指先にかかれば、まるで、魔法にかけられたシンデレラみたいにキラキラと輝く。

「なぁ、真理亜、将来の夢、思い出した?」

綺麗に、魔法が、かけられた私の髪の毛を満足げに眺めながら、ドレス姿の私を、タキシード姿の春馬が、意地悪く笑う。

「およめさん」
「遅いんだよ」

春馬が、私をコツンと小突いた。

今日から、春馬の隣にはずっと私がいて、私の隣には、ずっと春馬がいる。

「真理亜、好きだよ」
「春馬、大好き」

春馬が、王子様みたいに身を屈めて、私の白いグローブを嵌めた手を握る。

春馬に、手を引かれて立ち上がれば、純白のドレスの裾まである、長いヴェールに縫い付けられたビーズが、ステンドグラスの窓からの光を浴びてキラキラと輝く。握りしめた百合のブーケからは、甘い凛とした香りが、今日という日を祝福するように、私達を包み込む。

小さな頃から、私がずっと夢見てたお姫様には、ちゃんと王子様が、迎えに来てくれた。

『結婚のススメ』の定義って、なんだろう。
ふと、そんな、馬鹿なことが頭をよぎって、すぐに私はかき消した。

だって、愛なんて、それ以上でもそれ以下でもなくて、いつも側にいる、愛する春馬そのものだから。私達は、いまから鐘の鳴り響く教会で永遠の愛を誓う。

それは、愛する貴方の隣にいるための、ただの定義付け。