「……はへへふ?ほほひひふほは。はふへへひふふほひへひょうひほふは、ははひひはひへへひはふ
(……誰です?そこにいるのは。隠れているつもりでしょうが、私には見えています)」

「ほは、ひひはへはへははははほはへひはひへへはふほ
(ほら、言い当てられた貴方の焦りが見えていますよ)」と得意げな様子で告げる。
猿轡を外してくれないと上手く話せない。
そろそろ外して欲しい。
長く話そうとすると、モゴモゴしてしまう。
攫ってきた奴が適当につけたのか、話している間に外れそうなところまできていた。
呑気にみえるかもしれないが、冷や汗である。
獣ってわかってる癖に、話しかけても意思疎通できるわけがない!
今思えば馬鹿だと思う。
しかし、その時の私にはそんなことに気付く余裕なんてなかった。

「はははひはほふふへへふは……ひはひ、ははひははははひひゅふほほほほふほほはへひはふ
(私は小娘ですが……しかし、私は貴方に術を施すことが出来ます)」

そう言うと、息を飲むのが聞こえた。
もしかして……話が通じている感じかもしれない。
話が通じる獣について詳しく考える必要は無い。
兎にも角にも、話が通じる相手と分かれば話は早かった。

「ひゅひゅひゅひ……ほふひへはははひはふは?ふはんはひょひゃほはっへはふは、ほんひょふはほっひへふ。ほふへふ、ふはっへひはふは
(呪術師……そう言えば分かりますか?普段は御者をやってますが、本職は呪術師(こっち)です。どうです、喰らってみますか)」

いい感じに目を見開いてみる。
相手にも見えていないから意味が無いが。
あれからこれまで、でまかせだ。
でまかせでも問題ないだろう。
今、生き延びれればいいのだ。

「ほふへふ?ふはひはひへふは?ほふへひょふ。ふはっへひはひへひょふ
(どうです?喰らいたいですか?そうでしょう。食らってみたいでしょう)」

ウザイ。
演じている私からしてもウザイ。
私は、前世のゲームにでてきたウザイヤツの真似をした。
正式名称ウザイヤツ、通称ウザ。
私が前世プレイしていたRPGにでてきた、ことごとく主人公を煽り倒し、最終的には、王様になる。
本当に意味がわからないRPGだった。
なんでも、主人公を煽るのは煽り耐性があるかどうかを確かめていたらしい。
そして、主人公の忍耐力を認めた後は、さらに煽って冷静さを身につけさせようとしていたそうだ。
そんなヤバさしかないウザイヤツの有名なセリフがある。

「"ウザイと思ったでしょう。そうに違いない!だって、私自身がウザイと思うんだから。どうです、ウザッたいでしょう。そうでしょう?”」

ウザイと分かっているなら、尚更しないで欲しいと多くのプレイヤーも思ったことだろう。


一人道化のようなことを言っていると、後頭部に何かが当たった。
ふわふわとしていて毛玉のようなよく分からない感触だ。
その物体は鈴のような音をさせながら転がった。

「ほは、はひはははっはほふへふへ。ひはひ、ほんはほほはひひはへん。ひっはへひょふひゅひゅふひはほ。ほんはははひははは、はひはふほはんへひへふほ
(おや、何かなさったようですね。しかし、そんなもの聞きません。言ったでしょう呪術師だと。そんな私だから、対策も完璧ですよ)」

私の一言で空間の雰囲気が変わった。
急にヒソヒソと話し声がするようになったのだ。
因みに、何を言っているか分からない。
日本語でも英語でもない。
こう見えて、私はオタクの嗜みとして世界の言語を独学で軽く身につけている。
話せないが。
”簡単な単語で"なら答えられる。

「ほほへほはひへひはひはひはは?ほへは、ほふひはへはひはへん。へふは、ははひほ(恐れをなしてしまいましたか?それは、申し訳ありません。ですが、私も)」

「ひはへはひほへ(暇でないので)」と続けようとした。
続けられなかったが。
言おうとした瞬間に、急に視界が晴れたから。