急に扇子で口元を隠した。
ちらちらと視線は泳ぎ、言うべきかどうすべきか悩んでいるみたいだ。

「その、伝えづらいことなんですか?」
「違うんです、その」
「姫様?」

悩んでいる様子に流も首を傾げている。
「うん、えぇ、実は」

扇子を閉じて覚悟を決めた表情でミズチさんが顔を上げた。

「初恋の男の子と会いたいのです。お力添えをして頂けませんか」
「「は?」」
「姫様!?」

今、彼女はなんといった?
初恋の男の子と会いたい?
初恋の男の子?
初恋の男のぉ!?

「初恋の男の子って、どういうことだ?」

流石の新城も予想外だったんだろう。
目をさ迷わせながら尋ねる。

「まだ幼い頃、興味本位で一人、人間世界へ訪れました。その時、我を捕まえようと悪意ある退魔師の者が襲い掛かってきました。怪我を負った我は必死に逃げました。意識が朦朧としていたところを彼……カナタが助けてくれたのです」
「そんなことが」
「カナタは妖怪である我を見ても怯えず、むしろ回復するまで手当をしてくれた。あれから月日が過ぎてしまいましたが、もう一度、出来るなら一目、彼に会いたいのです。祓い屋様、お願いです。カナタにもう一度、会いたい、お力を貸して頂けないでしょうか」

過去に助けてくれた人にもう一度、会いたい。
人ならば、思う事だろう。
だが、怪異、いや、妖怪が人に会いたいなんて思う事があるのか?
今までにない事に僕はどう答えていいのかわからない。

「ねぇ、ミズチはカナタって人と恋人になりたいの?」

今まで静かに話を聞いていた瀬戸さんがミズチさんへ尋ねる。

「貴様、ミズチ様を呼び捨て等!」
「構わぬ、守りて様も我の事を好きな風に呼んでください」

流が先ほどの様に叫ぶも、ミズチ様の一言で沈黙する。

「そなたは……」
「アタシは瀬戸ユウリ、こいつらみたいな特別な力はない普通の女子高生よ」