「だから悪かったって言っているじゃん、もう怒らなくていいでしょ」
「お前に怒っているわけじゃない、ドアのところだけに結界を貼って窓に忘れていた俺に呆れているんだよ。くそっ」

グラウンドから特別教室へ移動した僕達。
あの時、結界で外に出れないようにしていた新城だが、致命的なミスをしていた。
教室のドアから出られないようにしていたが、窓の方に結界を貼ることを失念していた。
連日連夜の霊脈解呪で疲れていて、うっかりしていたらしい。
普段ならやらない凡ミスを仕出かした自分に怒っている。

「おい、人間!いつまでミズチ様を待たせるのか!」

教室内に響く僕達以外の声。
振り返ると机を集めて、ミズチさんが寛げる空間が出来上がっていた。

「うっせぇな、こっちはこっちで話があるんだよ!」
「なんだと!」
「しつこいと刺身にするぞ!このマグロ野郎!」
「やめなよ、新城」
「落ち着くのだ。流よ」

僕とミズチさんが新城と流(あの魚人の名前らしい)を落ち着かせる。

「チッ、刺身にしてやるのは今度だ」
「命拾いしたな、人間」

犬猿の仲みたいな感じだなぁ。
いや、この場合は人魚の仲かな?

「さて、祓い屋様達も落ち着かれたようですし、我がここへきた理由をお話ししたいのですが」
「あぁ、すいません」

静かに待っていたミズチさんに謝罪して、僕は彼女の方に視線を向ける。
ミズチ、新城が言うには水の力を司る妖怪……正確に言うと神龍の一体で、水を操る力に長けており、本気で怒らせたら日本を沈没させることくらい造作もない力を持っている、らしい。

「えっと、それで、ミズチさん、御用件というのは」
「無礼者!様を付けんか!」

尋ねようとしたところで流さんが激昂する。
江戸時代じゃあるまいし、様付けなんて。
どうしょう、と新城へ視線を向けると「面倒だから言う通りにしておけ」とアイコンタクトされる。

「ミズチ、様……本日はどのような御用で」
「えぇ、その、実は……」