鯉らしき顔の集団の後に牛車がやってくる。
水牛が引いている牛車の中に強い妖怪がいるのだろうか?

「控えよろう!この方をどなたと心得る!水の神、ミズチ様であるぞ!」

牛車の傍にいた妖怪が叫ぶ。
よくみると肌が青白い事と、耳の部分に鰭のようなものがあることを除けば人に近い存在だ。
この魚人の言葉が真実なら牛車の中にいるのはミズチという妖怪?神様らしい。

「聞こえなかったのか!?そこの人間ども!ひょろっとしたのと、ちっこいの!」
「だぁれがちっこいだぁああああああああああああああああああああ」
「あ」

止める暇もなく魚人の顔へキックを入れる新城。
一般高校生よりも身長が低いことを気にしている新城はチビや小さいと言われる事に耐性がない。
周りの鯉人間達が慌てて助けに向かっていくのを見ながら怒りを発散するように荒い呼吸をしている新城へ視線を向ける。
これって、問題になるのでは?

「無礼者め!この私の顔を蹴るとは!容赦せんぞ!」

蹴りが鼻部分に直撃したんだろう、少し赤くなっている。
怒った魚人の人が腰に下げていた刀を抜いた。

「斬り伏せてくれる!」

激昂と共に振り下ろされる刀をホルダーから抜いた十手で僕は防ぐ。

「貴様、阻むか!」

横から割り込んだ僕に魚人は怒りながら一度、刀を下げる。
刀を押し戻して新城を守るように十手を構えた。

「お前達、陰陽師だな!」
「違うわ、祓い屋だ」

驚いた顔をしている魚人へ新城が突っ込む。

「えぇい、まさかミズチ様を狙う不届きものか!斬り伏せてやる!」
「待ちなさい」

身構える僕達へ響く声。
凛として、そして、何か強い力を感じさせる声。

「刃を抑えなさい。無礼は我らにある」

牛車の幕があがって、そこから一人の少女が姿を見せる。
十二単を纏って、流れる髪はきらきらと輝いていた。
神々しさという言葉は目の前の少女の為にあるのではないかと思ってしまうほどの美貌を持っている。