あの後の事を話そうと思う。
周囲を警戒していた忍によって退魔師さんはどこかに連行された。
怨念の塊といえる男の退魔師に利用されていた事から減刑は考えられる話だという。
ミズチ様の件だけど、配下の方達は彼女が無事に戻ってくると感動のあまり涙を零していた。
新城に流も一応、感謝の意を示していた。
あぁ、そうそう、ミズチ様と彼方君の件だが、神様としての役目がある彼女は簡単に人間の世界へ訪れることはできない為、文通からスタートしたらしい。
「文通っていつの時代なのよ」
隣の席にいる瀬戸さんが驚いていた事が記憶に新しい。
まぁ、妖怪も携帯端末とか持っていないらしいから文通スタートは仕方ないと思うんだけど。
果たして、妖界からどうやって文通するのかな?と気になった。
後、彼方君は怪異や妖怪については最低限の知識を教え込まれて不用意に口外しないように釘を刺されている。
もし、口外したら――という先について、僕は思考から排除した。
青ざめている彼方君の様子から相当、ヤバイ事なのだろう。
深追いしないことにした。
「アタシ、途中で気絶して、後の事知らないけれど、結局、どうなったの?」
「事件は無事解決かなぁ?」
一歩間違えたら世界滅亡の危機だったなんて事、早々ないと願いたい。
「それにしても、ミズチの恋を叶えてあげたいという話からあんな事態になるなんて誰も予想できないでしょうね」
「本当に」
「雲川、アンタは大丈夫なの?」
「何が?」
「いや、あの青鬼の事よ」
瀬戸さんは僕に尋ねてくる。
「何の事?」
「アンタ、青鬼の女と殺し合い手前までバトっていたじゃない。そんな相手は」
「そういえば、あれから――」
会っていないなと言おうとした所で窓から何かが飛び込んでくる。
「え、なに!?」
「あれは……」
くるくると空中で回転して華麗に着地した女性。
流れるような髪に天へ伸びる角。
群青色を基調とした着物を纏っている。
「キミは」
「あの時の鬼女!?」
退魔師の所で怪異を撃退の為に一役買ってくれた彼女だ。
無事だったようだ。
「良かった、無事だったんだね」
「当然だ」
僕の言葉に彼女は表情を変えずに着地した机から降りる。
「父上からお前様の無事は聞いていた。だが、実際にみてみないと落ち着かなくなったから来た」
「そうなんだ、あれ、でも、妖界って、不用意に外に出たらダメなんじゃ?」
「問題ない」
警戒している瀬戸さんを置いて、僕は彼女へ話しかける。
「そうなの?なら、大丈夫かな?」
「……お前様、心配してくれたのか」
「そりゃ、あの怪異の群れを一人で任せてしまったし……あの後、青山さんに聞いても教えてくれなかったし」
「そうか、やはり父上は会っていたようだな……しかし、問題ない」
ぐいっと彼女が近づいてくる。
「ちょ、ちょっと、そんな近づいて大丈夫なの?雲川!凍真を呼んだ方が」
焦った様子の瀬戸さんに僕も同じ気持ちを抱く。
目の前の彼女は何か様子がおかしい。
「あぁ、そう」
「お前様」
瀬戸さんの方を見ていた僕を無理やり前に向かせた。
ぐいっと僕に顔を近づける。
「私の名前を呼んで欲しい」
「え、名前を?どうして」
「頼む、この前の褒美として欲しい」
この前の褒美と言われたら、断りづらい。
「えっと、千佐那」
僕が彼女の名前を告げるとビクンと体を震わせた。
「え、どうしたの!?大丈夫」
慌てて僕が駆けよろうとしたところで伸びてきた二つの腕が僕の頬を掴む。
「ん……」
「雲川!え、ちょっ」
何が起こったのかわからない。
後ろから聞こえる瀬戸さんの驚きを含んだ声。
目の前に彼女の顔がドアップで映っている。
そして、口元に感じる暖かいもの。
しばらくして、満足した表情で彼女は僕から離れる。
突然の事に僕は痺れたように動けない。
え、もしかして、僕。
「キスされた!?」
「あぁ、間違いない。接吻をしてみて確信した」
唇をぺろりと舐めながら微笑む彼女の姿はどこか妖艶だ。
今まで見ていた無感情、無機質みたいな姿と別人にみえる。
「一体、何が」
「遅かったみたいだな」
教室のドアが開いて新城と青山が現れる。
「新城、一体、どういうこと!?」
突然の事態に戸惑っている僕は新城へ叫んだ。
「お前は」
「父上、千佐那は相手をみつけました」
「……あぁ、そのようだな、いや、父親としてはとても嬉しい事なんだけどさ……まさか、というか、いや、なんといえばいいのか」
彼女の言葉に青山は困惑していた。
「凍真、これはどういう状況!?」
「どういう状況か、まぁ、簡単に言えば」
新城の話を聞こうとしたところで一旦、離れていた僕の前に彼女が近づく。
両手が伸びて、僕を抱きしめる。
大事なものを扱う様に全力ではなく、力加減がされていた。
しかし、逃げられないようにしっかりと抱きしめられている。
「旦那様、私だけの旦那様だ」
「旦那様……旦那様!?」
「おめでとう、雲川、お前は残念な事に妖怪の花婿に認定されたましたとさ」
「花婿ってどういう意味!?」
「そのままの意味だ。あ~、守りての兄ちゃんには悪いけど、娘がお前を婿として娶るというわけで」
頬をぽりぽりと指でかきながら申し訳なさそうな、嬉しそうな表情をしている青山さんが説明をしてくれる。
「言っている意味はわかるんですけど!?え、いや、どうして」
「警告したよな?」
動けない僕に呆れた様子で新城が近づく。
「青鬼の娘の名前を呼ぶなと、距離を考えろと……お前は不用意にそこの娘と距離を近づきすぎた為に、幸運にも、そこの小娘の夫として選ばれた」
「そういうことはちゃんと」
「旦那様」
ぐいっと、頬を掴まれて彼女の方を向かされる。
頬を膨らませて僕を見ていた。
「千佐那を無視して、そこの男と話をするなど、嫁の扱いが悪いぞ」
「いや、僕は了承したわけじゃ」
「聞かぬ」
さらにぎゅっと抱きしめられて彼女の温もりとか香りが漂ってくる。
「こりゃ、骨が折れるな」
「はぁ……まさか、手を焼いていた娘が別の意味で問題を抱えるなんて」
新城と青山に助けを求めたいのに、二人は距離を置いている。
瀬戸さんは思考停止しているのか、動く様子がない。
「幸せになろう、旦那様よ」
ニコリと微笑む千佐那の言葉に僕はどんな表情を浮かべているだろう。
どうやって脱出しよう!?
「そして、何度も斬り結ぼう。旦那様の動きなら死ぬことはない。何度も、夫婦になればずっと切り結んでいられる。何より、旦那様の子を千佐那は欲しい!」
「いや、あの、僕はまだ、結婚とか、そういことは、後、斬りあうとかそういうことはむぐぅ」
最後まで言い切る前に彼女へ唇を塞がれてしまう。
「あの、話を」
一旦、解放されたと思ったら再び唇を塞がれる。
助けを求めて手を動かすけれども、誰も掴んでくれない。
視線を向けようとしたら凄い力で頬を抑え込まれる。
「助け」
「私の求婚を受け入れるまでキスを続けるか?それにしても、このキスというのは只の唇同士の接触かと思っていたが、とんでもなく癖になるな」
唇を離して、僕を見つめる彼女の目。
気のせいか、瞳の中に炎がみえる。
「これから、私という存在を教え込んでやろう、お前様」
新たな問題が僕に降り注いだ事で思考がマヒしてしまう。
いや、本当にどうしよう?
周囲を警戒していた忍によって退魔師さんはどこかに連行された。
怨念の塊といえる男の退魔師に利用されていた事から減刑は考えられる話だという。
ミズチ様の件だけど、配下の方達は彼女が無事に戻ってくると感動のあまり涙を零していた。
新城に流も一応、感謝の意を示していた。
あぁ、そうそう、ミズチ様と彼方君の件だが、神様としての役目がある彼女は簡単に人間の世界へ訪れることはできない為、文通からスタートしたらしい。
「文通っていつの時代なのよ」
隣の席にいる瀬戸さんが驚いていた事が記憶に新しい。
まぁ、妖怪も携帯端末とか持っていないらしいから文通スタートは仕方ないと思うんだけど。
果たして、妖界からどうやって文通するのかな?と気になった。
後、彼方君は怪異や妖怪については最低限の知識を教え込まれて不用意に口外しないように釘を刺されている。
もし、口外したら――という先について、僕は思考から排除した。
青ざめている彼方君の様子から相当、ヤバイ事なのだろう。
深追いしないことにした。
「アタシ、途中で気絶して、後の事知らないけれど、結局、どうなったの?」
「事件は無事解決かなぁ?」
一歩間違えたら世界滅亡の危機だったなんて事、早々ないと願いたい。
「それにしても、ミズチの恋を叶えてあげたいという話からあんな事態になるなんて誰も予想できないでしょうね」
「本当に」
「雲川、アンタは大丈夫なの?」
「何が?」
「いや、あの青鬼の事よ」
瀬戸さんは僕に尋ねてくる。
「何の事?」
「アンタ、青鬼の女と殺し合い手前までバトっていたじゃない。そんな相手は」
「そういえば、あれから――」
会っていないなと言おうとした所で窓から何かが飛び込んでくる。
「え、なに!?」
「あれは……」
くるくると空中で回転して華麗に着地した女性。
流れるような髪に天へ伸びる角。
群青色を基調とした着物を纏っている。
「キミは」
「あの時の鬼女!?」
退魔師の所で怪異を撃退の為に一役買ってくれた彼女だ。
無事だったようだ。
「良かった、無事だったんだね」
「当然だ」
僕の言葉に彼女は表情を変えずに着地した机から降りる。
「父上からお前様の無事は聞いていた。だが、実際にみてみないと落ち着かなくなったから来た」
「そうなんだ、あれ、でも、妖界って、不用意に外に出たらダメなんじゃ?」
「問題ない」
警戒している瀬戸さんを置いて、僕は彼女へ話しかける。
「そうなの?なら、大丈夫かな?」
「……お前様、心配してくれたのか」
「そりゃ、あの怪異の群れを一人で任せてしまったし……あの後、青山さんに聞いても教えてくれなかったし」
「そうか、やはり父上は会っていたようだな……しかし、問題ない」
ぐいっと彼女が近づいてくる。
「ちょ、ちょっと、そんな近づいて大丈夫なの?雲川!凍真を呼んだ方が」
焦った様子の瀬戸さんに僕も同じ気持ちを抱く。
目の前の彼女は何か様子がおかしい。
「あぁ、そう」
「お前様」
瀬戸さんの方を見ていた僕を無理やり前に向かせた。
ぐいっと僕に顔を近づける。
「私の名前を呼んで欲しい」
「え、名前を?どうして」
「頼む、この前の褒美として欲しい」
この前の褒美と言われたら、断りづらい。
「えっと、千佐那」
僕が彼女の名前を告げるとビクンと体を震わせた。
「え、どうしたの!?大丈夫」
慌てて僕が駆けよろうとしたところで伸びてきた二つの腕が僕の頬を掴む。
「ん……」
「雲川!え、ちょっ」
何が起こったのかわからない。
後ろから聞こえる瀬戸さんの驚きを含んだ声。
目の前に彼女の顔がドアップで映っている。
そして、口元に感じる暖かいもの。
しばらくして、満足した表情で彼女は僕から離れる。
突然の事に僕は痺れたように動けない。
え、もしかして、僕。
「キスされた!?」
「あぁ、間違いない。接吻をしてみて確信した」
唇をぺろりと舐めながら微笑む彼女の姿はどこか妖艶だ。
今まで見ていた無感情、無機質みたいな姿と別人にみえる。
「一体、何が」
「遅かったみたいだな」
教室のドアが開いて新城と青山が現れる。
「新城、一体、どういうこと!?」
突然の事態に戸惑っている僕は新城へ叫んだ。
「お前は」
「父上、千佐那は相手をみつけました」
「……あぁ、そのようだな、いや、父親としてはとても嬉しい事なんだけどさ……まさか、というか、いや、なんといえばいいのか」
彼女の言葉に青山は困惑していた。
「凍真、これはどういう状況!?」
「どういう状況か、まぁ、簡単に言えば」
新城の話を聞こうとしたところで一旦、離れていた僕の前に彼女が近づく。
両手が伸びて、僕を抱きしめる。
大事なものを扱う様に全力ではなく、力加減がされていた。
しかし、逃げられないようにしっかりと抱きしめられている。
「旦那様、私だけの旦那様だ」
「旦那様……旦那様!?」
「おめでとう、雲川、お前は残念な事に妖怪の花婿に認定されたましたとさ」
「花婿ってどういう意味!?」
「そのままの意味だ。あ~、守りての兄ちゃんには悪いけど、娘がお前を婿として娶るというわけで」
頬をぽりぽりと指でかきながら申し訳なさそうな、嬉しそうな表情をしている青山さんが説明をしてくれる。
「言っている意味はわかるんですけど!?え、いや、どうして」
「警告したよな?」
動けない僕に呆れた様子で新城が近づく。
「青鬼の娘の名前を呼ぶなと、距離を考えろと……お前は不用意にそこの娘と距離を近づきすぎた為に、幸運にも、そこの小娘の夫として選ばれた」
「そういうことはちゃんと」
「旦那様」
ぐいっと、頬を掴まれて彼女の方を向かされる。
頬を膨らませて僕を見ていた。
「千佐那を無視して、そこの男と話をするなど、嫁の扱いが悪いぞ」
「いや、僕は了承したわけじゃ」
「聞かぬ」
さらにぎゅっと抱きしめられて彼女の温もりとか香りが漂ってくる。
「こりゃ、骨が折れるな」
「はぁ……まさか、手を焼いていた娘が別の意味で問題を抱えるなんて」
新城と青山に助けを求めたいのに、二人は距離を置いている。
瀬戸さんは思考停止しているのか、動く様子がない。
「幸せになろう、旦那様よ」
ニコリと微笑む千佐那の言葉に僕はどんな表情を浮かべているだろう。
どうやって脱出しよう!?
「そして、何度も斬り結ぼう。旦那様の動きなら死ぬことはない。何度も、夫婦になればずっと切り結んでいられる。何より、旦那様の子を千佐那は欲しい!」
「いや、あの、僕はまだ、結婚とか、そういことは、後、斬りあうとかそういうことはむぐぅ」
最後まで言い切る前に彼女へ唇を塞がれてしまう。
「あの、話を」
一旦、解放されたと思ったら再び唇を塞がれる。
助けを求めて手を動かすけれども、誰も掴んでくれない。
視線を向けようとしたら凄い力で頬を抑え込まれる。
「助け」
「私の求婚を受け入れるまでキスを続けるか?それにしても、このキスというのは只の唇同士の接触かと思っていたが、とんでもなく癖になるな」
唇を離して、僕を見つめる彼女の目。
気のせいか、瞳の中に炎がみえる。
「これから、私という存在を教え込んでやろう、お前様」
新たな問題が僕に降り注いだ事で思考がマヒしてしまう。
いや、本当にどうしよう?