「準備完了だ」

新城の合図と共に刃を戻す。
訝しむ退魔師の足元に『封』の文字が浮かび上がる。

「貴様ぁ、封印するつもりか!?この我を!」
「違う。封印するのはお前に憑りついている気色悪い存在だ」

新城の言葉に退魔師がはじめて、動揺の表情を浮かべる。

「ど、どういう意味だ!?この私に憑りついて等」
「ここへ来る前に、青鬼に調べてもらった」

動けない退魔師の傍まで新城は歩み寄る。
施したという封印の力が強いのか退魔師は動くことが出来ない。

「お前の村は確かに妖怪の襲撃を受けている。だ、が、それはお前達の村が非人道的な行為を行っていたからだ」
「嘘だ!我らの村はそのような!」
「さっき、青鬼の忍が確認をしていた。あったみたいだぜ?非人道的な行いの証拠」

僕は知らなかったけれど、空中に信号弾が打ち上げられていたらしい。
信号弾は「我、発見」という意味合いをもっていたそうだ。

「私をだますための戯言だ!そのようなことは、やはり妖怪と組むような人間は!!」
「ところで」

新城は膝をついた退魔師と目を合わせる。

「お前、さっきから主語が私や我といっているの気付いている?」
「何を……」
「我っていう度にお前から膨大な殺意と悪意を感じられた。それは十年、二十年そこらの人間が放つものじゃない。何より、お前が秘術と謳っているモヤは術じゃない。何百年という怨念を込めた者なんだよさぁ、いい加減、出て来いよ」

ガクン、と退魔師の体が動き、再び顔を上げた時。
あまりのおぞましさに僕は息を飲む。
憎悪で顔を歪めていた美女の顔が伸びに伸びた髭を持つ骸骨のようなやせこけた男の顔に変貌する。
誰、といいそうになった。
けれど、僕はあることに気付く。

「この顔……」
「そうだ、最初に俺達の前に姿を見せた男の顔だ。女の退魔師は駒だといったが、実際は違った」
「頭が回るようだな、だが、このまま我が終わることは」
「いいや、終わりだ」

退魔師の足元が強い輝きを放つ。