迫りくる水に僕達は全力で走る。

「そろそろカードをきるぞ!」
「大丈夫!?なんか、この状況で呼び出すと凄いヤバイかもしれないけど!?」
「当たって砕けろ、いや、砕け散ろだな」
「酷すぎない!?」

新城はくるりとその場で回転すると懐から一枚の札を取り出す。
札を地面に置いて指先を向けた。

「転移!一条彼方!」

ボフン!と煙を吹きながら札を置いた場所に一条彼方君が現れる。

「転移術!?そんな高度な術を!」

退魔師が驚いている。
新城の使った術で現れた彼は叫ぶ。

「もう、やめて!」
「カナタ!?」

彼方が叫ぶと共に迫っていた水が動きを止める。
ちらりと新城をみた。
新城が小さく頷くと彼は前を向いてゆっくりとミズチ様の方へ歩んでいく。

「カナタ、あぁ、カナタ、私の花婿、さぁ、こちらへ」
「……僕は、今の君と一緒にいたくない」
「え?」

笑みを浮かべて手を伸ばしていたミズチ様の動きが止まる。
拒絶されるとは思っていなかったのか信じられないという目で彼方君をみていた。

「どうして……」
「新城さんから聞いた、キミは妖怪で妖怪が住まう世界を守っているんでしょ……」
「そうよ。でも、貴方がいない世界に意味はないわ。だから、教えてもらったのよ。どうすれば、貴方と一緒に居られるかって」

ミズチ様の目に黒い感情が宿っている。
退魔師に何か吹き込まれてあんな目をしているのだろうか?

「こんな、特に特徴のない僕を必要と言ってくれるのは嬉しいよ。でも、僕は貴方の事をまだ何も知らない。それなのに、僕と世界を天秤にかけて世界を壊そうなんて言うのは、間違っていると思う」
「どうして、どうして、そんなひどい事を言うの!?カナタの事をずっと思い続けていたというのに!?」

叫びと共に周囲へ水が飛び散る。

「まるで水の刃だな」
「これ、僕達も危ないんじゃ?」