拳は怪異の体を切り裂いた。

「間違いない、私は見つけたのだ。よもや、その相手が人間だったという事はとても驚いている。だが、悪くない。えぇ、悪くないとも」

血まみれの指をみて、唇に触れる。
唇を赤に染めて、千佐那は刀を手に取った。

「有象無象、お前らに構っている暇はない、すぐに終わらせてやる」

瞳から好戦的な炎を放ちながら千佐那は地面を蹴る。
爆発的な加速で怪異の群れの中に突撃。
怪異達が宙に舞う中、千佐那は瞳を輝かせて刀を構える。

「さぁ、潰れろ」

千佐那の後ろで信号弾が上がっていたが気付いていなかった。











「意外と早かったな、祓い屋」
「多少は急いだからな、退魔師」

薄暗い納屋で凍真と退魔師は対峙する。
しかし、凍真はその一歩を踏み出さない。
退魔師のすぐ傍、椅子に座らされている少女がいる。
誘拐された妖怪ミズチが縛られていた。

「人質、いや違うよな?」
「当然だ。コイツは優秀な駒だからなぁ」

ニタァと血走った瞳と笑みが退魔師の狂気性が増していた。
迂闊に動けない凍真の前で退魔師が縄を解く。

「ほら、お前の花婿を奪い取ろうとしている奴がいるぞ。そいつを殺せ、そうすればお前と花婿を邪魔する奴なんていないぞぉ」
「カナタを奪う、相手」

ミズチが立ち上がる。
俯いており表情が読めない。
しかし、全身から凍真に向けて恐ろしい殺意が向けられている。
普通の人間や並の祓い屋なら向けられている膨大な殺意に一歩も動けなくなっていただろう。
相手の動きを伺うべきだろうと思った直後。
地面や周囲の至る所から水が噴き出す。

「勘弁してくれよ」

全てがミズチの放つ神としての力。