「成程!行くぞ!」

目をキラキラさせながらこちらをみてくる彼女になんともいえない表情を抱きつつ、怪異に意識を集中する。
直後。

「これは神力か」
「神力?」
「おそらく、ミズチが力を開放したのだろう」

ぽつぽつと僕らの頭上へ雨が降り注ぎ始める。

「急ごう、新城が心配だ」
「ならば、ここは私に任せると良い」
「……大丈夫なの?」

目の前の巨大な怪異へ拳を振り下ろしながら彼女が振り返る。

「大丈夫といいたいが、少し不安だ。だから、お前様にお願いがある」
「僕にお願い?」

目の前の怪異を峰打ちで弾き飛ばしながら僕は振り返る。

「私の名前を呼んでくれ」
「名前を?」
「そうだ、お前様は祓い屋に言われて名前を呼ばないようにしているのだろう。だが、これだけ大勢の相手と戦うのだ。力を発揮するためにもお前様に名前を呼んで欲しい」

彼女のお願いを叶えるという事は新城の忠告を破るという事になる。
でも、僕を見ている彼女の不安に揺れている目をみて、僕は少し悩む。
短い時間だけれど、彼女は信用できる相手だとわかった。
だから、僕は――

「…………千佐那」

僕が名前を呼ぶと彼女は俯く。
しばらくして、素敵な笑顔を浮かべる。

「ありがとう、お前様、私は必ず勝つぞ」
「お願い」

小さく頷いた千佐那と別れて僕は新城の後を追いかける。
後ろで何やら大きな爆発音のようなものが聞こえたような気がするけれど、そちらへ意識を割かずに走った。



「フフッ」

千佐那は雲川丈二が去っていく足音を聞きながら笑った。
もし、この場に青山がいればとても驚くだろう。
彼女を知る者は無表情、無感情でしかなかった者がはじめて浮かべる感情。

「お前様、私は間違いではなかった……」

愉悦の表情を浮かべながら目の前の怪異へ拳を突き出す。