新城凍真は山奥にある村へ来ていた。
廃れている様子からして彼がいる場所は廃村のようだ。

「よく来たな、祓い屋」
「ご丁寧に追跡用の術札を残していてくれたからな」

村の入口に足を踏み入れたタイミングで切り株に腰掛けていた退魔師が顔を上げる。
この前よりも目元の隈が濃くなり、肌色も悪く見えた。
予想通り、彼が仕込んでいた術札は退魔師の手の中にあった。

「ここは退魔師の一族が住んでいた村か?」

だが、凍真は指摘せずに別の事を尋ねる。

「どうせだ、ここまできたのだから村を案内してやろう。ついてこい」

歩き出す退魔師の後を静かについていく凍真。
廃村故に二人以外に人はいない。
建物という建物が半壊している。
家の支柱であろう残りに傷やこびりついている血等からある推測を立てる。

「妖怪の襲撃を受けたか?」
「その通りだ」

振り返らずに答える退魔師。

「ありきたいな結末か」
「そうだな、ありきたり、ありきたりだ。だが、当事者である我らはその“ありきたり”で終わらせられるものか!」

怒りのあまり近くの柱を殴り飛ばす。
霊力の纏った拳によって柱が音を立てて倒れた。

「だから、怪異へ、妖へ復讐するために戦争を起こすと?滅んだ一族の復讐の為に生きている人達を皆殺しにするような状況を引き起こすと?」

咎めるような凍真の問いかけに退魔師は応えない。
しかし、体から迸る敵意が自分へ向けられている。

「アンタの中で答えは出ている。だから止めるつもりはないというわけだ」
「そうだ。私は戦争を起こす。どうだ?私と手を組まないか?お前程の実力なら我の右腕になりえるだろう?」
「悪役のド定番のセリフをありがとう……だが、答えは一つ、断る」

表情を変えずに凍真は拒否する。
振り返らずにいた退魔師は小さくため息を零す。

「今の世界にしがみつくか……」
「見解の相違だな」

パチリと退魔師が指を鳴らす。
建物の一部を壊し凍真を包囲するように現れる下級の怪異。

「おいおい、妖怪だけじゃなくて怪異も呼びだすか」