「知らん、物心ついた時から私は強くなりたいと望んでいた……きっと、私は青鬼の中で異常なのだろう。青鬼はこの世界を守る事を使命としている。だが、私は戦いの中で身を置きたいと……父上の言葉よりも、戦う事ばかりに意識がいってしまう」

俯いた彼女の表情は髪に隠れて見えない。
けれど、そんな彼女の姿が数ヶ月前の僕と重なる。
生きているようで死んでいる、そんな自分とどこか似ていると感じたからこそ。

「自分がどうありたいかは、自分が望めばなれるんだよ」
「なに?」

僕の言葉に俯いていた彼女が顔を上げる。

「前に、呪術で精神が蝕まれていた僕に大切な人が教えてくれた言葉だ。キミは悩んでいる。だったら、まだ変われるチャンスはある」
「ちゃんす……お前様はかわれたのか?」
「うん、助けてもらいながら、だけど」
「……お前様は、私を。千佐那を助けてくれるか?」

見上げてくる彼女の瞳は不安に揺れている。
変われるかどうかわからないんだろう。
僕は彼女へ手を差し伸べた。

「助けるよ。僕が助けてもらえたように、キミも変わりたいと望んでいるんなら助ける」

差し伸べた手と僕を交互に見て、彼女は手を掴む。
刀を握り続けた事でマメができてごつごつしているけれど、とても綺麗な手だ。

「僕達はミズチ様を助けに行く、その為に力を貸してほしいんだ」
「お前様が言うなら、私は、千佐那は、お前様の為に力を振るおう」




















「一体、どういう術を使ったんだ?あの千佐那が、戦う事第一みたいな奴が大人しく従うなんて」

僕が彼女、千佐那さんと戻ってくると青山が信じられないという表情でこちらをみていた。
室内にいるのは青山と新城、そして、一夜明けて落ち着いた様子の一条彼方。

「彼女も色々と変わろうとしているって事です」
「新城の坊主もそうだが、坊主も凄い奴ってことだな」

頭の中で整理して納得する落としどころをみつけたのかもしれない。
青山はそれ以上、追及せずに新城へ視線を向ける。

「それで、一日過ぎちまったがどうするつもりだい?」
「手はある。ミズチに追跡用の術札を忍ばせていた。彼女がどこにいるのかわかるんだよなぁ」